ニーナ義母さんの主張
ニーナ義母さんて、こんな人です。
パワフルで思い切りの良さはオスカー君以上かも。
「あら、良いんじゃない。ランデア子爵は従属爵位なんだから、マークがランドール伯爵位と掛け持ちできるでしょ。ミリアやカークに従属爵位が必要になったら、国王陛下にお願いして新しい爵位を作っちゃえば良いんだし。そもそも従属爵位が一つしかないっていうのが、伯爵家としては不味いのよね。まあ、ランドールのお義父様もオスカーもまだまだ現役なんだから、先の話よね。成るように成るわよ」
ニーナ義母さんがあっけらかんと言った。
相変わらずのマシンガントークだけど、僕がランドール伯爵になることが前提なのは訂正して欲しい。
「だから、そういう話じゃなくて……」
「未来がどうなるかなんて、誰にも分からないわよ。良いこと、物事は成るようにしか成らないの。人間、諦めが肝心だわ。与えられた条件の中で足掻くしかないの。無い物ねだりしたって時間の無駄。地に足を付けて現実を生きなきゃ。手に入れられるもので遣り繰りしてできる限りの幸せを目指すの。願いが全て叶うなら、今頃私はツオーネ女男爵に成ってるわよ」
ニーナ義母さんの最後の一言は、まぎれもなく本音だろう。
静寂が、場を支配した。
誰もが口を開かない。いや、開けない。
「あ、あのう」
空気を読んだのか読まないのか、ライナーが口火を切ってくれた。
「ニーナさんが女男爵に成れないのは何でですか。マークはちっちゃかったから良く分からないって言うし」
母上がにっこり笑った。
「ライナー。平民が伯爵夫人に直接呼び掛けるのは無礼になりましてよ。この場は息子の友人という立場ですから、見逃されているだけと知りなさい。それでも、伯爵夫人と呼ぶべきですわ。名を呼ぶ許しを得たとしても、ニーナ様と呼びましょうね。ニーナさん呼びはアウトでしてよ」
ライナーの背筋がピンと伸びた。
「ご免なさい、私が緩すぎるのよね。でも、こういうのって、普段から慣れておかないとついポロッと出ちゃうもんだから、練習と思ってね。私も頑張る」
ニーナ義母さんが宣言して、キリっと余所行きの顔になった。その横でミリアもそっくりな表情になる。
あんまり似てるんで笑いがこみあげて来たけれど、ここで顔に出したら、母上から大目玉だ。
「オスカーも私も、納得済みだったの。未亡人になったキャサリン義姉さんが意に沿わない再婚を迫られて、ランドール子爵家を乗っ取られかねないってリアーチェ義姉様の意見、尤もだったんだから。んん、尤もだったから」
それで、母上とオスカー義父さんが再婚したわけか。なんだか、リアーチェ叔母様のしたり顔が浮かんできた。
デイネルス女侯爵閣下が主導したなら、反対はまず無理。押し切られる姿しか思い浮かばない。
それにしても凄いな。高位貴族でもないのに、第一夫人と第二夫人を揃えるなんて。
「その節は、本当に申し訳なく思っていますわ。本来ならニーナ様が第一夫人でいらしたのに」
「だから、そこは納得済みですって。マークが長男、キャサリン義姉さんが第一夫人。そのままランドール家を任せておけるんですもの。あくまでオスカーはキャサリン義姉さんの虫よけで、マークが成人するまでの中継ぎ当主。私が第二夫人の方が、スムーズにツオーネ男爵家へ戻れるはず、だったんですけどねぇ」
確かに。
ランドール家が伯爵に陞爵した今となっては、オスカー義父さんの去就は軽々しく行えなくなってしまった。
救国の英雄で国軍大将、聖女ミリアの父親で、デイネルス第三宰相の実弟だ。そんな義父を差し置いて、僕が伯爵になって良いわけがない。
「オスカーが男爵家に戻るのは無理だとしても、カークに後を継いでもらいたいって思うのは間違いじゃないでしょう。本人がツオーネ男爵家よりランドール伯爵家の方が良いって言うなら、それはそれで良いと思うけど、カークは次男です。従属爵位を賜って、分家になるのが筋ってもんでしょう。長男のマークを押しのけるなんて、道理が通らないわ」
こうして話は振出しに戻るんだ。
ルシカ先輩、どうしたらオスカー義父さんとニーナ義母さんを説得できるか、後で一緒に考えて下さい。
オスカー君とキャサリン義姉さんの再婚については、本編で第一章を丸々使って書いてます。興味のある方はそちらをどうぞ。大人の事情もちらほらと(笑)
リアーチェ叔母様の王家への直談判、独立した中編にすることにしました。タイトルは『デイネルス侯爵令嬢の結婚』にしようと思います。
さて、中編で納まるかな(;^_^A
お星さまとブックマーク、よろしくお願いします。




