二人の母親
ランドール伯爵家の女性三人の登場に、素早く反応したのは、ルシカ先輩だった。
すっと立ち上がり、流れるように一礼する。
「初めまして。マクレーン子爵家次男、ルシカ・マクレーンと申します。王立中央高等学園、三年生。デイネルス女侯爵閣下より、マーク卿の側近候補に指名していただいております」
過不足ない自己紹介。初対面の印象は上々だろう。
さすがはリアーチェ叔母様が目を付けていた人材、ってところか。
ライナーは完全に出遅れてて、まだ座ったまま。口を半開きにしてポカンと入り口を見てる。
「紹介します。ルシカ先輩と僕の同級生のライナー。ライナーは寮でも同室です。ミリアのアシスタントに紹介したから、ちょくちょく顔を出すことになりますよ」
ライナーが慌てて立ち上がった。ガバッと頭を下げて、勢いよく自己紹介。
「俺、ライナーです。よろしくお願いしまっす」
洗練も何もありゃしない。ルシカ先輩の引き立て役になってるぞ。
「マークの母ちゃんって、すっげー美人。マークって母ちゃん似なのな。ミリアちゃんもニーナ母ちゃんそっくり。一目で母娘って分かった」
あー、ライナー、小声のつもりなんだろうけど、ちっとも潜めてないから。丸聞こえだから。
「ライナーと言いましたわね」
母上がにっこりとおっしゃった。リアーチェ叔母様並みの、迫力ある笑顔だ。
「礼儀作法というものは、弱者の鎧ですのよ。それをまとっている限り、立場が上であればあるほど、手を出しにくくなりますの。マークとミリアの傍に居たいのならば、付け入る隙を無くさなければ。平民の傍若無人さもまた武器になりますから、捨てろとは申しませんわ。両方をしっかり使い分けられるようになりましょうね」
………良かった………んだよな。母上に拒絶されなかったんだから。
すまん、ライナー。断るのは無理だと思う。
母上はスパルタだけど、理不尽な方じゃないから。ルシカ先輩並みの礼儀作法を身に着けられるチャンスだと思って、頑張ってくれ。
「改めてご挨拶いたしましょうね。わたくしはランドール伯爵家第一夫人、キャサリン・ランドール。マークの母ですわ」
「私はニーナ・ランドール。ランドール伯爵家の第二夫人ってことになってるわ。ミリアと末っ子のカークの母よ」
ソファに母上とニーナ義母さんが二人並んだ。
生まれも育ちも立場も全然違うけど、それが上手くかみ合ったのか、すごく仲が良い。どちらも、僕の大事な母親だ。
「あの、俺、貴族様のことは良く知らないんですけど、聞いて良いですか。カークって、マークに弟がいたんですか」
えーと、母上とニーナ義母さんよりカークの方が気になるのか。
「もちろん良いわよ。今八歳でね。私の実家に預けてるの。私の実家は名ばかり男爵でね。辺境開拓に成功して叙爵したのはいいけど、それ以上開拓が進まなくて。昔も今も小っさな村が一つだけ。領主って言うより、男爵の肩書持った村長なのよね」
ニーナ義母さんのマシンガントークが始まってしまった。聞いてるライナーの目がキラキラしてるのが救いか。
「俺、開拓村から来たんです。もうちょっとで人口五千人超えるから、開拓成功認定もらえそうなんです」
「それ、すごいわよ。ライナー君の村、頑張ったのね」
「はいっ」
馬が合うって、良いことだな。うん。
「カークはツオーネ男爵家の跡取りだから、子供の内に馴染んどいた方が良いかなって。ほら、私がランドール家に来ちゃったから、田舎の両親も寂しがってるし。村のみんなも私のお婿さんいつ帰って来るんだって言ってくれるけど、ちょっと無理そうだしね」
オスカー義父さんは救国の英雄でランドール伯爵家の初代当主だからな。子爵家だった頃ならともかく、今更男爵家の入り婿には戻れないだろう。
それよりも、だ。
「ニーナ義母さん。カークはオスカー義父さんの実子なんだから、ランドール伯爵家を継ぐべきだよ。僕は亡くなった父の代わりに、元々の子爵領を継ぐから」
これだけは、譲れないから。
二人の母親。子供二人の母親か、母親が二人いるのか。日本語って、どちらの意味にもなりますよね。今話は、両方の意味を掛けました。
第一夫人と第二夫人の解説入れようと思ってたのに、ライナー君はカーク君の方に興味が行ってしまいました。お冨のキャラって、自由だなぁ。
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