学園改革は突然に
きょう、気温34度代でした。久しぶりに猛暑日以下。
これで涼しいと感じるなんて、今年はつくづく異常です。
学園一の問題児がいつの間にか姿を消した。
公式発表は何も無く、わざわざ話題にする者も居ない。一年Aクラスだけは、転校したらしいとの情報が流れたが、それで終わりだった。
初めて尽くしの学園生活は、そんなどうでも良いことに拘っていられないほど、賑やかに過ぎていく。
昼食後のクラスミーティングも、十回を超えた。
学園の選択授業は、大雑把にグループ分けされていて、それぞれ名称が付いている。
騎士科、官僚科、領政科、家政科、商業科、教養科。
昔は騎士クラス、官僚クラスと別れていて、他のクラスの授業を受けることは出来なかった。その名残だそうだ。
「個人の適性に合わせていつでも進路変更できるように、ついでに自分の適性探しもできるようにっていうのが、クラス改革の趣旨だった。そのきっかけになったのがな」
担任のジャック先生が挙げた名前に、驚きの声が挙がる。
初の平民出身宰相として歴史に名を遺した有名人だ。一代で伯爵位を賜って高位貴族入りした、立身出世の代名詞。
「平民宰相が騎士科出身ってのはあまり知られてないエピソードだ。なにしろ平民だからな、騎士団の事務を全部押し付けられていた。それが、戦乱のどさくさで王城の事務処理の手伝いに駆り出されてな。その有能さに引っ張りだこになって、気が付いたら、宰相に上り詰めていたわけだ」
ざっくりした説明だが、納得できてしまう。
戦乱の時代の騎士団はさぞかし脳筋揃いだったろう。事務仕事を軽視していただろうし、それは平民に押し付けるだろうなと。
「それでだ。来年度から、学園改革が決まった。変更点は三つ。先ず、入学年齢の上限を撤廃する。十五歳以上なら、誰でも入学のチャンスが与えられる。その代わり、入学試験を導入する。入学直後の実力試験は廃止。入学試験の結果でクラス分けを行うことになる」
ザワリと教室が揺れた。
雑談だと思っていた話が、いきなり自分たちに関係してきたんだ。そりゃ驚く。
「進級時の実力テストは今まで通り。テスト結果によるクラス替えも変更なし。特待生制度もそのままだ。ただし、十二歳の卒業試験で満点取っていても、学園の入学試験に通らなければ特待生とは認められない。まあ、そういうことだ」
ああ。あの女みたいな特待生が二度と現れないように対策したってわけだ。それにしては大規模だけど。
「変更点二つ目。今年度までは貴族全員学園入学が義務だったが、来年度からは任意になる。ただし、学園を卒業できなければ爵位を得られない。家督を継げないし、独立する時も騎士爵や準男爵にはなれない。実質的に貴族の義務のままってことだな」
「先生、それじゃ、平民行きが決まってる俺なら、無理して学費払わなくていいってことですか」
声を上げたのは、一代限りの下位貴族の子弟。
親は貴族でも、自身は成人と共に平民になる。それでも貴族の義務が適用されるから、苦しい家計から学費を工面しなきゃいけない。
残念ながら寄り親を持たず、学費援助を頼める当てがないといつも愚痴っている。払った学費の元は取ると、旺盛な学習意欲でAクラス入りを果たした奴だ。
「来年度からな。今年度は義務のままだ。それと、慌てて退学しない方が良いぞ。学費については納期延長が認められることになった。卒業後、働きながら返せばいい。詳細は正式発表まで待て」
それは凄い。つまり、年齢や経済力に関わらず学園に入れると言うことか。
「最後の三つ目。来年度から、卒業と同時に騎士爵位、または準男爵位が与えられる。これは全生徒が対象だ」
…………。はぁあっ。
「今までの下位貴族は、家督を継げない貴族の子弟かよほどの功績を上げた平民だったが、これからは学園の卒業証明になる。ま、平民叙爵の功績に学園卒業が認められたってことだな。貴族は家からの独立を待たずに自身の爵位を得ることになる」
先生、簡単におっしゃってますけど、それって、社会制度の改革じゃないですか。何でそんな大袈裟な話になったんですか。
脳裏を過ったのは、リアーチェ叔母様。
初めて僕が頼ったからって、妙に張り切っていたデイネルス女侯爵の笑顔だった。
ちょっとフライング気味ですが、ここで学園改革持ってきました。
次話からは、再びデイネルス侯爵邸が舞台になります。ライナー君の問題もありますから(笑)
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