ヒロインまたはあの女
今日から当分、猛暑日が続くそうです。梅雨明け十日と言うけれど、暑すぎませんか。
「マーク様ぁ、お探ししましたわ」
遠慮のかけらもない大声が、食堂に響き渡った。
マナー違反もいいところだ。周囲から集まる視線は、またかと呆れたものが多かった。
王立中央高等学園三年生、特待生マリア。
悪い意味で学園一の有名人だ。
カタンと小さな音がして、第二王子殿下の右隣に座っていた先輩が立ち上がった。
多分、護衛を兼ねた側近なんだろう。見事に鍛えられた体格で、そこに居るだけで威圧感がある。
騎士科の高位貴族なんだろうな。
将来は近衛騎士かな。
益体もないことを考えていたら、殿下が口を開かれた。
「危険はないよ、座って。本人が出向いてくれたなら好都合だ。このまま話してしまおう」
「よろしいのですか」
ここまで案内してくれた側近の方が確認する間に、立ち上がっていた先輩が座りなおした。視線だけはあの女を睨んだままだ。
「ここは学生食堂。今は身分序列適応外だ。私に突撃してくるなら問題だけど、彼女の目当てはマーク卿のようだし」
あらためて言葉にされると、ダメージが。
なんであの女は僕に狙いを付けたんだ。誓って言うが、見ず知らずの他人だぞ。
「マーク様、やっとお会いできましたわ。寂しかったですぅ~」
実に分かりやすい媚びた声に、なぜここまでバレバレの演技をするのだろうと疑問に思った。
これで僕の気を引けると本気で思っているんだろうか。確かに存在を認識させられたけど、思いっきりマイナス方向だ。わざと嫌われたがっているとしか思えない。
「三年生とお見受けしますが、一方的に名を呼ばれるのは不愉快です。それに、今僕は会食中です。邪魔はしないでいただきたいのですが」
「まあ、わたくしの名前を知りたいと仰るのね。感激です。わたくし、マリアと言います~」
なぜそうなる。
「マリア嬢、マーク卿は私たちが先客でね。話をしていたところだよ。割り込むのは感心しないな」
第二王子殿下、そんな言い方では撃退は無理かと。
「では、同席させていただきますわ。マーク様とお話したいですもの」
ちーがーうー。殿下はあっち行けっておっしゃったんだよっ。こいつ、心臓に毛が生えているのか。
「まあ、良いでしょう。ちょうど貴女のお話をしようと思っていたところですから。本人が居た方が好都合かな」
にっこり笑った殿下の顔が、リアーチェ叔母様とかぶった。
これ、女傑様モードの笑顔だ。王族仕様だからそれ以上の攻撃力がありそうな。
できれば避難したいけど、この女を押し付ける訳には行かないし。
いや、僕が席を立てば殿下から引き離せるか。
逡巡している間に、女が図々しくも座ってきた。おいっ、僕の隣に並んで座るんじゃないっ。
「わたくし、マーク様とお話したいですの。どなたか知りませんけど、邪魔しないでいただけます」
殿下に向かって何て口の利き方を。
「心配しなくても、この場で名乗るつもりは無いよ。不敬罪に問うことは無いから、安心するが良い」
女が間抜けな顔をした。
おい、まさかと思うけど、第二王子殿下の顔を知らなかったと言うんじゃないだろうな。お前、三年生だろ。
「わ、わたくし、特待生ですのよ。ここに居る権利が有りますの」
側近方の殺気に近い威圧と不敬罪と言う言葉に、女も思うところがあったんだろう。僕から目を離して、正面を向いた。
「確かに、君は特待生だ。勉学の権利を絶対的に保障されている。だけどね。勉強する権利であって、必ず卒業できると言う権利ではないんだよ。君、三年生にもなって、ほとんど単位を取得してないじゃないか」
そうなのか。壊滅的成績だって聞いたけど、さすがにそれは無いだろう。
「このままだと卒業不可。後一年で学業不振による退学扱いになる。それでは特待生にした意味がない。国から支給した学費と生活費を返済してもらうことになるけど、君、返せる? せっかくの学園を卒業できませんでしたじゃ、ろくな就職先は見込めないし、結婚相手だって見つからないだろうね」
女がワナワナと震えだした。ちょっとは現実が見えたんだろうか。
「マーク様、お助け下さいまし。わたくし、マーク様のことを癒して差し上げられますわっ」
だからなぜ僕に振るんだ。
ざまぁに挑戦してみようかと。お花畑勘違い女に現実を見せるって楽しいですよね。
ただ、お冨が書くと現実の中身が……。
マーク君にウザ絡みする描写の前に、経済問題を突きつける殿下の図が来ました。どこかなろうのざまぁとはずれている自覚が有るんですけど、普通のざまあって何だっけ(笑)
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