食堂再び with 王子様
暑いです。暑いを通り越して熱いです。窓を開けると熱風が。
今週の土曜日は仕事なので、更新は無しです。
第二王子殿下の側近の方に案内されて、男子寮に一番近い食堂に向かった。つまり、一番広くて一番生徒が集中する食堂だ。
「殿下の私的な招待だからね、あくまで学生同士の態度で構わないよ。私も名乗っていないから、身分序列は無視して良い。正式な挨拶は要らないし、無礼講と思って欲しい」
歩きながら説明を受けて、そんなものかと思う。
「呼びかけは殿下で良いですか。さすがに名前呼びはちょっと」
王族に対しての無礼講と言われても、基準がイマイチ分からない。
なにしろ僕は、半年前まで子爵家令息だったんだ。それも就学前の未成年。成人して当主になった所で、ありふれた領地持ち貴族でしかない。
領地を持たない法衣貴族として出仕するならまだしも、ただの中位貴族が王城に足を踏み入れる機会はまずない。当然、王族のご尊顔を直接拝見するなんて夢のまた夢の筈だったんだけど。
「勿論。そうだな、普通の先輩よりちょっと丁寧な態度で。高位貴族、侯爵あたりの当主相手だと思えば良い」
「申し訳ありませんが、それ、基準になりません」
反射的に答えてしまった。いや、だってさ。
「え?」
「僕の知る侯爵家当主って、リアーチェ・デイネルス女侯爵お一人です。親戚の叔母さん相手の、砕けた対応しか知りません」
リアーチェ叔母様、すぐに冗談言うし、揶揄ってくるし。かと思うと、女傑っぷりが凄いし。
名無しの先輩が、呵々大笑した。通りすがりの生徒が視線を送ってくるほどの大声だ。
学園内だからこれで済んでるけど、王城だったら、警備が飛んで来るんじゃないか。
「ハハッ、いや、失礼。そうか、あの女傑様を叔母さんか。ハハッハッハッハハッ」
先輩、笑い上戸なんですか。
食堂の奥まったテーブルで、殿下と同席することになった。
さすがに遠慮があるのか、周囲には空席が目立っている。不躾にじろじろ見てくる者はいないが、自然に人目を集めているみたいだ。
僕は殿下の正面。殿下の両側には護衛だろうか、体格の良い上級生が二人。その隣に案内してくれた先輩が座った。
「初めましてだね。気を抜いてくれて良いよ。入学してからずっとここを利用しているから、周りも慣れてる。逆に新入生の緊張が久しぶりで、懐かしいかな」
何と言うか、第二王子殿下は『王子様』だった。上品で、人を従えるオーラみたいなものが自然に滲んでいる。
「さ、食べながら話そうか」
テーブルに並ぶのはトレーに乗ったランチセット。昼食は全員同じメニューだ。
「マーク卿に来てもらったのは、寮の自治会について打ち合わせしたいから、と言うのが建前だ」
いきなり食欲が無くなるようなことを。面倒だなぁ。
「卿が一年の身分序列一位だと言うことは、ここ数日で周知完了する。つまり、自動で来年の自治会長決定だ。引継ぎをスムーズに行うためにも、今年から自治会に入って欲しい」
建前と言う割には、真っ当な話だった。
「こうやって新人をスカウトするのが、元自治会長の最後の仕事でね。一年のメンバーが揃ってから、三年生は正式に自治会から引退する。もちろん、二年生の会長が後で入れ替えても差支えない。退会させるのはよほどのことだけど、増員は結構頻繁だな」
「そうなんですね」
前年度の自治会長を務めた殿下の言葉は、具体的で分かり易かった。
トレイがほぼ空になってきたところで、殿下が僕をまっすぐ見つめて来た。
「マーク卿、ここからが本題だが」
カトラリーを皿に戻して、姿勢を正す。
殿下個人から僕への話か、それとも僕を窓口にした王家とランドール伯爵家の話か、さてどちらだ。
身構えた僕の後ろから、バタバタと足音がした。
「マーク様ぁ~」
振り返りたくない。振り返りたくないが、何故あの女がここに来る。
王子様の呼び出し、何の用件にしようか迷っている内に、ヒロイン(仮)が突撃して来てしまいました。
うーん、この勢いのまま、ヒロインネタを最後まで書いちゃうかどうしようか。マーク君のストレス軽減のためにけりを付けちゃいましょうかね。
書き出すと長引く予感もするし、悩みどころです。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。