ミリアちゃんのプレゼン
短いですが、今日はここまで。次回から学園生活本番です。
多分、廊下を走って誰かにとっちめられたんだろう。ミリアが静々と戻ってきた。
もちろん、手ぶら。後ろからメイドさんが資料の山を乗せたトレーを持って付いて来てる。
「お待たせしました。ご覧くださいな。わたくしの自信作ですのよ」
ライナーの件は一旦保留するしかないか。後でリアーチェ叔母様にも話しとかないと。
「詳しくお話いたしますわって、無理。今は仕事の話なんだから、お嬢様モードなんてやってらんない」
淑女モード、秒で終了。ミリアだからなぁ。
ローテーブルに広げられたのは、ミリアが手掛けている漫画とやらの原稿。
絵と文字だけど、絵本とは違う。風船みたいな輪っかが登場人物に紐付いていて、その中に話し言葉が入っている。
「凄いですね。教会で見たものと全く同じだ。あれは版画なのですか」
「原理は似たようなものだけど、版画じゃなくて印刷って言うの。再現率が段違いでしょ。版画じゃ線がにじんでくるから、全国の教会に配布するだけの枚数を用意できないの」
「印刷、ですか」
「そう。神の御業の一端よ。これからどんどん普及していく予定だから。でね、でね、やっぱり漫画が万人受けすると思うの。面白くて読み易くて、難しい制度の解説なんかもするっと頭に入ると思うのよね」
ルシカ卿とミリアが話している横で、ライナーは真剣に原稿を精査していた。
「こんなの、俺、描けねぇけど。アシスタントって、何すんだ」
「だーいじょーぶ、大丈夫。初めはベタ塗とか、点描とか効果線なんかの見本を描いてもらうから。根気が要るけど難しくないよ。サンプル揃えば、後はコピペして使うから手間にならないし。スクリーントーン代わり作るのは初めだけだし。それより、学園内で面白いネタが有ったら提供して欲しいんだけど」
ミリア、それじゃ説明になってないから。神代古語並べられても、分からないよ。
「とにかく、実地で説明するしかないと思う。時間かけて丁寧にやれば誰でもできる仕事だから。とりあえず、こっちに来れそうな日の連絡ちょうだい。本格的に作品発表まではまだ余裕あるし。マーク兄様、またアルバイトしてくれる人紹介してね」
「あー、ライナー、どうしても無理ってなったら、僕の責任で辞められるようにするから。試しにやってみてくれ。とにかく、今日の買い物代金分だけは働こう」
「う、うん。そうする」
この後、伯爵家出身の上級使用人の皆様が、アシスタントさせてくださいとミリアに泣き落としで迫ったそうだ。
年上の貴族様に囲まれて働く羽目になるとは、僕もライナーも全く予想できなかったんだ。
伯爵家から馬車を出してもらって、北城門まで送ってもらった。そこから先は乗合馬車を利用する。
直接学園の有る森林公園入口まで乗り付けることもできるけど、悪目立ちしそうで止めておいた。
パンパンの買い物袋を三人で手分けして運んで、ルシカ先輩とは学園の正門で別れた。
先輩が卒業するまでは、僕の側近候補に成った事は極秘事項だ。
寮の部屋に帰り着いて、ホッと一息。
疲れたけど、充実した、いや、充実し過ぎた週末だった。
明日から、いよいよ学園生活本番だ。楽しんで行こう。
神代古語とは何ぞやと思われた方、本編を……(笑)
お星さまとブックマーク、よろしくお願いします。