この世で一番特殊なアルバイト
マーク君、途中で寒い親父ギャグもどきを言ってます。
全国津々浦々という表現を入れたかったんですが、デルスパニア王国には(この時点では)海が無い設定なので、意味が通らないなと自重しました。
誤字報告ありがとうございました。修正しました。
会話文の中で同じ言葉を繰り返している部分は、誤字ではなく表現方法の一つです。ご了承ください。
「ありがとう、マーク兄様。これでやっと一コマ漫画と四コマ漫画から卒業できそう」
上機嫌なミリアが、くるりと振り向いた。
これは不味い。ニーナ義母さん譲りのマシンガントークが始まる前兆だ。
「ミリア、落ち着いて。先ずは座ろうか」
ソファに座り直して、隣をポンポンと叩く。
ミリアが素直にちょこんと座ると、メイドさんがティーセットの乗ったワゴンを押して入室してきた。ドアの外でタイミングを計っていたんだろう。
さすがと言うか何と言うか、うるさくなく、それでいて痒いところに手が届く完璧なサービスっぷりだ。リアーチェ叔母様に連れられて行った超高級レストランのウェイターを思い出す。
優秀なウェイターはかなりの専門職で、王宮の特別な晩餐会では特別手当付きで応援に呼ぶんだとか。
そんなサービスを我が家で日常的に受けるって、慣れるのが怖い気がする。なんだかな。
淹れ直したお茶と茶菓子の載ったローテーブル越しに、ライナーとルシカ卿と向き合う。
僕が意識を逸らしている間に、少しは顔色が戻ったようだ。
「あくまで学業優先。空いた時間でミリアのアシスタントをしてくれれば良い。移動手段とアシスタントに必要な備品は全てランドール伯爵家から出す。報酬は、我が家の紋章入りカード。簡単に言うと、ランドール伯爵家にツケを回して買い物ができるようになる。学生証とも紐付けるから、学食の有料メニューが食べ放題だぞ」
「やる!」
ライナーが食い気味に言った。食い意地が張っているだけにな。ハハハ。
「あのね、あのね、今、漫画を描いてるの。今までは一コマ漫画と四コマ漫画止まりだったんだけど、そろそろストーリー漫画にレベルアップしたいの。作業量が滅茶滅茶増えるから、一人じゃ手が回らないの。未経験者歓迎。だってまだ経験者は一人も居ないもの。今考えているストーリーは平民を主人公にして、卒業試験や特待生制度とか、あと、学園物にもしたいから色々教えて欲しいの」
ミリア、ちょっと落ち着こうな。いっぺんに言っても、理解が追い付かないから。
「あのー、そもそもなんだけど、漫画って、何」
「あ、そうよね。教会に壁新聞みたいに貼りだしてもらっているから見た事はあると思うんだけど。実物見るのが手っ取り早いか。今、持ってくるね」
言うが早いか、バタバタと走って部屋を出て行った。
ここで自分で取りに行くのが子爵家なんだよなぁ。自分のことは自分でするのが当たり前だったし。
ミリア、先ずはメイドさんに持って来てって頼めるようになろう。学園入学までには、伯爵令嬢に成り切ろうな。
「随分と、お元気なご令嬢ですね」
ルシカ卿が、控えめな表現で言った。
「お転婆って言ってくれて良いですよ。まだまだ子供だから。それに、聖女様だからね。他所から来た上級使用人の皆さんは誰もミリアを窘めないんです。子供がする事全て肯定って、教育上よろしくないって僕でも分かるのに」
いくら聖女様だからって、盲目的に従うだけじゃダメでしょ。
幸いと言うか、元から子爵家に仕えてくれている皆は遠慮なく叱ってくれるから……。
「教会? 壁新聞?」
ライナーが頭をひねっていた。
「見た事ありませんか。教会の壁に貼ってあるはずですけど」
「うん。俺の村には教会無かったから。卒業試験は隣の町まで受けに行ったんだ。教会へ行ったのは、そん時が最初で最後」
「教会が無いのか。村で」
教会は祈りの場所だけど、国の出先機関でもある。神官様は暮しに身近な行政手続きをしてくれるお役人、国から給料をもらってるれっきとした文官だ。
村と呼べる規模なら、必ず在る筈なのに。
「教会の設置は領主の基本的義務です。設置するまでは領地から徴税する権利がありません。ライナー君の村はどこの領地ですか。領主は誰です」
「居ないよ。俺の村、辺境の開拓村なんだ。まだどこの領地でもねぇんだ」
はい?
「領主が居ない? なら一律に王領扱いだけど。代官も居ないのか」
「居ないよ。だから辺境の開拓村なんだって。未開地は誰でも勝手に開拓して良いし、成功したらちゃんと領地として認めてもらえるって、とーちゃんと村長さんが言ってた」
「じゃあ、じゃあ誰がライナーの奨学金出してるんだ」
「知らね。村長さんはなんも言ってなかった」
ここにきて、衝撃の事実が発覚した。
後半、またもや薀蓄話にそれてしまいました。
辺境の開拓村については、本編第七章の「開拓村にて」を参照してください。
ミリアちゃん、生原稿を持って来て、熱く語る予定。前世、一度だけコミケに参加経験ありの同人作家でしたので。
この辺りは、本編第八章「軍需は産業革命の夢を見るか」を参照のこと。
基本的に本編を読まなくても大丈夫なように書いてますが、お冨の思い込みで説明すっ飛ばす可能性があります。お気付きの点があれば、ご指摘お願いします。
お星さまとブックマーク、よろしくお願いします。