ランドール家の不思議
ミリアちゃん登場まで、なんとか辿り着きました。
本編の感想でなぜ近衛騎士が独身なのか質問をいただきました。そちらの感想返しで書かせていただいたので、興味のある方はどうぞ。
「お帰りなさいませ」
ランドール伯爵邸の玄関ホールにずらりと並ぶ上級使用人の皆様。一斉に下げる頭の角度が、軍人かって言いたくなるほど揃っている。
貴族教育が行き届いている証だそうだけど、また人数増えてるよ。今度はどこの家から送り込まれて来たんだろう。
「ただいま。学園の友人と先輩だよ。よろしく頼む」
使用人に対する心得とやらを叩き込まれたけど、敬語を使っちゃ駄目っていうのが、いまだにきつい。早いとこ伯爵家を出て、子爵家に戻りたいよ。
「畏まりました。ようこそ、ランドール伯爵邸へ。わたくし、家令を務めますリカルド・オーエンと申します。何なりとお申し付けくださいませ」
一分の隙も無く深々と頭を下げたのは、先日までオーエン伯爵家の当主だった人物。
「マクレーン子爵家次男、ルシカ・マクレーンと申します。失礼ながらオーエン伯爵家の方でしょうか」
先輩の声が緊張していた。
オーエン伯爵家はただの家じゃない。デアモント公爵家の従属伯爵家だ。
その上、リカルドさんは王宮で国王陛下の侍従長を務めてらした前歴の持ち主なんだよ。本来なら新興伯爵家なんて気に掛けることも無い立場の方だ。
「左様でございます。ささ、談話室へどうぞ。お話は後程いかようにもさせていただきます」
確かに玄関先で長々と話すことじゃない。
「ミリアがいるなら呼んでくれる。紹介したいんだ」
「畏まりました」
それから、並んでいた皆さんが流れるように動き出した。
僕らの前に立って案内してくれるメイドさん。何人か奥に向かったのはミリアを呼びに行ってくれたんだろう。
無言のままキビキビと自分の持ち場へ散っていく様子が、訓練の行き届いた兵士を思わせる。
これって、オスカー義父さんが軍人ってこととは関係ないよね。そうだよね。
ソファに落ち着いて、出されたお茶とお菓子で一息つく。プライベートと言うことで、室内は僕たちだけだ。
扉は開かれていて、メイドさんが廊下で待機している。呼び出しに応じるためだとわかっているけど、監視されているようで落ち着かない。慣れる日は来るんだろうか。
「マーク卿。何故伯爵家の方が家令を務めていらっしゃるのでしょうか」
ルシカ先輩が疑問に思うのも尤もだ。
「家令だけじゃないよ。我が家の上級使用人の方は全員が従属伯爵家出身なんです。つまり、公爵家と侯爵家からの出向組ですよ」
先輩が絶句した。僕は乾いた笑いしか出ない。
「それっておかしいことなんか」
ライナーは何がおかしいのか分かっていない。貴族の常識を知らなきゃ、そんなもんだろう。
「そもそも従属貴族は主家より低い爵位しか持てない。伯爵位なら公爵家か侯爵家の家臣なんだ。伯爵家に仕える伯爵家出身者は有り得ない。独立して準男爵や騎士爵を名乗るなら別だけど、家令のリカルドさんは伯爵位のままだ。まずそこがおかしい」
分かったのか分からないのか、ライナーが曖昧に頷いた。
「で、だ。従属貴族でも、伯爵家の方はあくまで家臣であって、上級使用人にはならないんだよ」
「へっ?」
「使用人は、庭師や馭者、掃除洗濯を担当する下働きとか料理人とか。上級使用人は執事や家令、メイド長、来客に対応するメイドも含まれるけど、あくまで屋敷内の仕事しかしない。領政を任される家臣とは、はっきり区別されているんだ」
絶対に、絶対におかしいんだ。
「例外的に伯爵以上の爵位が必要な使用人は、王宮で侍従とか侍女を務めてるよ。家臣じゃなくて使用人扱いするって、王家だけの特権なんだ」
「ちょっと分かんないんだけど。何でそんな事になってんだ」
何故、ランドール伯爵家が王家並みの待遇を受けているのか。
説明する前に、原因が満面の笑みで部屋に飛び込んで来た。
「マーク兄様、お帰りなさい」
義妹のミリアだった。
うう、薀蓄が止まらない。
本編でちょろっと書いた内容です。オスカー君視点では説明しきれなかったので、ここにぶっこんでみました。
次話では、ミリアちゃんの聖女あつかいがいかに大袈裟か、書きたいと思います。あ、その前にライナー君のアルバイト紹介しなくちゃだった(笑)
お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。




