ライナー君の事情聴取
昨日は本降りの雨、今日は晴れ。日差しは真夏でも風はヒンヤリ。梅雨入りはまだ先のようです。
女侯爵様に言われて、すっげぇ立派なお貴族様のお部屋から外に出た。奨学金について別の部屋で調査するんだと。
マークが言ってたけど、俺、もっとたくさん支給がある筈で、現状はおかしいんだそうだ。
そう言われてもな。
よその町へ丁稚奉公に行く時、行商のおっちゃんに連れてってもらうのは普通のことだぞ。食料持参で自炊しなきゃなのに、王都まで日数掛かるからってちゃんと食事出してくれたんだから、破格の待遇ってヤツなんだけど。
わざわざ荷台に隙間を開けて寝場所作ってくれて、屋根のあるところで眠れたし。そのせいで積み荷が減っちゃったんだから、働いて返すのは当たり前だろ。
そう言ったら、事務官だって言うおじさんが頭抱えていた。
何で乗合馬車を使わなかったんだと言われても。
それ、どこで乗るんだ。村じゃ見た事も聞いた事も無かったけど。それに王都までいくら掛かるか分かんないし。行商のおっちゃんならタダで連れてってくれるぞ。
「以上です。奨学金自体については、村長から受けた説明が全てで、それ以上は知りませんでした。本人は嘘偽りなく証言したと断言いたします」
部下から受け取った調書に目を通しながら、デイネルス女侯爵は左手のカップから紅茶を一口飲んだ。
「なるほどね。これ以上は知らないと。良いわ、現地に調査員を派遣しなさい。早馬の使用を許可します。学園長に彼の入学手続きに関しての資料を提出するよう要請して。三日後の午後に報告するように。来週の週末には、マークちゃんに朗報を伝えなければね。それと、我が家の奨学生枠にライナー君を入れる準備を。無駄になるかも知れないけれど、用意しておいて」
「畏まりました」
部下が一礼して退出して行った。
腹心と言っていい有能な部下だ。期日までに詳細な資料と過不足なく要約された報告を持ってくるだろう。
一学生の問題に駆り出すような人材ではないが、事がマーク・ランドールに関わるとなれば、手を抜くなどと言う選択肢は有り得ない。
「なかなか面白い子ね。マークちゃんが気に入る筈だわ」
ノーマークだったが、側近候補のリストに入れて良いかも知れない。
カップに残った紅茶を飲み切ると、調書を一時保管のケースに入れて、頭を切り替える。
領主としての仕事は終わりが無い。大勢の部下に割り振ってはいるが、最終責任は自分だけのものだ。そして信頼する部下だからこそ、不正に目を光らせる義務がある。
一つ息をつき、次の案件に取り掛かった。
「へぇ、ルシカ先輩がマークの側近に。なんかすげぇけど、それって学園卒業してからなんか」
「はい、そうですよ。今は側近候補という立場です。就職先が無事に決まって、ほっとしています」
カラカラと馬車の車輪の音がする。侯爵家で出してもらった普段使い用の馬車で、家の紋章は付いてないけど、そこそこ上等だ。
これから平民街へ出て、色々足りてないライナーの買い物をする予定。そんな所に紋章付きの馬車で出かけたら、邪魔だし場違いだし、面倒で仕方ない。
「まずは私服。下着と靴も要るな。着替えたら、アルバイト先を紹介するから。立て替えとくから、アルバイト代から返してくれれば良いよ」
「そうですね。後は日用雑貨の店にも行きましょう。学生向けのお勧めの店に案内しますよ。平民の学生御用達ですから、価格はほどほど、品質はまあまあだそうです」
「助かります」
さすが先輩、頼りになる。
「どういたしまして。初仕事ですからね。どうぞこき使ってください」
喜んでいるところ、申し訳ないんだけど。ちゃんと言っておかないと、後ろめたいから。
「あの、先輩。そのことなんですけど。僕は将来、伯爵家から出るつもりなんです。だから、僕個人の側近じゃなくて、ランドール伯爵家へ仕官する形にした方が良いと思います」
ちょっと話を進めました。
学園入り口で生徒を待つ貴族の馬車は、紋章付きが暗黙の了解。でないと、どこの馬車か分かりませんから。
昔は学園の正門まで大量の馬車が渋滞起こしたため、基本馬車禁止になりました。そこに特例を持ち込める家なら、紋章付き馬車を用意できて当たり前。
用意できない家は、見栄を張らずに乗合馬車使っておけと言う話です。
お星さまとブックマーク、よろしくお願いします。
いいねを頂ける話、お冨の予想とはズレがあって、興味深いです。
そっか、こう言う話の方が受けるのか(笑)