入学式は出会いの場
マーク君、入学式です。
感想、ありがとうございます。読ませていただいてます。
デルスパニア王国の王都デルーアは城塞都市だ。中心に王城、周囲に貴族街、そのまた周囲に平民街があって、その全てを城壁が囲んでいる。
北城門から延びる北街道を馬車で一時間、北の森林公園の入り口に辿り着く。そこから徒歩十分で王立中央高等学園、通称貴族学園の正門だ。
「んじゃあ、貴族学園は王都じゃねぇの」
「正式にはね。城壁の中だけがデルーアだよ。学園は王都に一番近い街道沿いの宿場町ってことになる。まあ、そこまでこだわらなくても、普通に王都の学園って言われてるよ」
正門の受付の列に並びながら、知り合ったばかりのライナーとおしゃべりした。
ライナーは初めての王都で、右も左も分からないらしい。地方から出てくる平民の奨学生なら珍しくないけどね。
「付き添いはいないのかい」
「うん。王都までの旅費、工面できなかった。なんとか俺だけ行商のおっちゃんに連れて来てもらったんだ。食い扶持は雑用して、夜は荷馬車で寝かしてもらって宿代浮かせたから。ちゃんと屋根のあるとこで寝れたから、ラッキーだった」
なんともたくましい話で、驚いた。
「すごいな。ライナーは奨学生だろう。奨学金に、旅費は入ってなかったのか」
平民に奨学金を出すのはその地を治める領主や、王領なら代官、大商人だったりする。優秀な子供に先行投資として援助するんだ。
援助の内容は様々。衣食住丸ごと面倒を見た上に、小遣いを渡すのが普通だ。待遇が良いと、家臣に準じる扱いで給料が支払われることもある。
義父さんが伯爵に陞爵した時に、援助する側の心得として、学園入学を控えた僕も一緒に説明を受けた。
「そんな贅沢できないって。授業料と制服だけでも高いからな。将来、返しきれなくなっちまう。節約できるとこは節約しないと。あ、マーク、どっかで割のいいアルバイト紹介してくんない。食い扶持稼がなきゃな」
「ちょっと待て。将来返す? 奨学金は返済不要じゃないのか。それじゃ奨学金じゃなくて借金だろう。ライナーに奨学金出す後援者は誰なんだ」
ちょっと聞き捨てならない話が出てきた。
「えっと。誰って。村長さんが奨学金出るから行ってこいて言ってくれたんだけど。どこから出るかは聞いてない」
色々突っ込みたいんだけど。これ、ひょっとしたら叔父さん案件かもしれない。
そう思ったところで、受付の順番が回ってきた。
「入学式終わったら、ちょっと詳しく聞かせてもらいたいな」
「いいけど、なんか、笑顔が怖いぞ」
受付でライナーと別れた。貴族の僕と平民のライナーは、案内される待機場所が違っていた。
「ここにいるのは、全員が伯爵家出身者だ。今年は公爵、侯爵の生徒がいないので、君たちが学年の身分序列最高位になる。節度ある態度で、生徒の規範となって欲しい」
引率の教師の言葉に、ちょっとうんざりする。
僕のランドール家は、半年前まで子爵家だった。周囲には見知った顔が一つもない状態だ。
「ただし、学園でモノを言うのは学力序列だ。明日実施する実力テストの結果で、クラス分けが行われる。そこには身分による忖度は一切ないから、覚悟しておくように。平民を侮るんじゃないぞ。学力だけでこの学園に入学を決めた実力者ぞろいだ。身分に胡坐をかいていると、あっという間に脱落するからな」
教師の話は、至極真っ当なものだった。
身分序列は、マナーの習得と将来の人脈作りのために使用される。それ以外で振りかざせば、貴族として適性に欠けると査定される。それはとても不名誉なことで、将来に影響することになる。
「君たちは未成年で生徒だ。何事も経験し、失敗を重ねて学んで行け。必要以上に委縮することはない。卒業までに挽回できればそれで良い。特に平民との付き合い方を覚えるように」
後でライナーに聞いたけど、平民は平民で貴族との付き合い方のレクチャーがあったそうだ。
学園を一歩出たら身分序列が幅を利かせるから、考えて行動するようにと念を押されたとか。
全校生徒が集合する大講堂で、粛々と入学式が挙行された。
在校生代表として祝辞を述べたのは、三年生のアレクサンダー殿下だった。第二王子だから、身分序列ぶっちぎりで一位の方だ。
祝辞は儀礼になるので、身分序列使用の範囲内。
ただし、同格の家が複数あったりすると、学力序列の出番だとか。
「学力序列という基準が明確にあるのは、学園内だけです。社会に出れば、複雑な力関係が待っている。その中で自分らしく生きていく力を、この学園で培って下さい。これからの三年間、新入生諸君が実りある学園生活を送れることを祈念して、祝辞といたします」
朗々とした声。さすが王族、気品が半端ない。これが威風堂々なんだと納得するスピーチだった。
受付で手渡された部屋割り表を手に講堂を出ると、寮に向かう人の波ができていた。当たり前だけど、男子寮に向かうのは男ばかり。そのはずだったんだけど。
「きゃあ、ごめんなさい」
なんで女子生徒がぶつかってくるんだろうか。
プロローグを書いてから一週間、総合ポイントの増え方にビビってます。週末更新が途切れないよう、頑張ります。
大好きな蘊蓄とテンポのいいストーリーの両立を目指します。
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