就職はコネクションが大事
どこまでが女傑様の演技で、どこまでが本気なのか。
まだ学生では見極め出来そうにないです。
誤字報告ありがとうございました。
「話は分かりましたわ。特待生とは難儀なことですわね」
リアーチェ叔母様が、頬に手を当ててホゥと息をついた。
年齢不詳の美女がすると素晴らしく絵になるけれど、どこまで計算しているんですかね。デイネルス女侯爵閣下の女傑ぶりを知っている身としては、違和感をぬぐえないんだけど。
あ、ほら、ルシカ卿がビビッてますよ。
ルシカ・マクレーン先輩、叔母様はこうなったら止められないから、諦めて下さい。
「直接的に糾弾する訳には行きませんわ。特待生制度に抵触してしまいますもの。特待生の身分保障は王家が定めた絶対的権利。それを揺るがす前例は残せません」
まあ。そうでしょうね。侯爵家だからこそ手を出せないってことですね。
「だから、搦め手で行くしかないでしょう。うふふ、どう料理しようかしら」
本当に楽しそうですね、叔母様。僕に無茶振りしないで欲しいんだけど。無理かなぁ。
「ねぇ、マークちゃん、ルシカ卿は成績優秀だし、マークちゃんを馬車で拾う機転も効くし。どうかしら。お買い得じゃなくて。相性も良いように見えますわ」
執務机から身を乗り出してきた叔母様が、益々楽しそうに宣った。
「いつも言ってますけど、マークちゃんは勘弁してください。僕はもう学園生ですよ」
「あら、良いじゃない。大事な大事なマイダーリンの甥っ子ですもの。良かったら何時でも我が家の養子に入ってもらっていいのよ。ああ、デイネルス侯爵家の後継者に成ってもらうにはいったん他家に出てもらわないと。マークちゃんならどこの家も大歓迎よ」
あ、不味い。
横を向くと、案の定、先輩が青い顔をしていた。
「先輩、本気に取らないで下さい。これ、叔母様のいつもの冗談ですから。聞き流すか、聞かなかったことにしましょう、そうしましょう」
「は、はい」
かろうじて返事をした先輩が、ゴクリと唾をのみ込んだ。
「結構よ。声を出せれば上出来だわ」
叔母様が、いや、デイネルス女侯爵がそこに居た。さっきまでの姿は何だったのかと思うくらい、威厳たっぷりだ。
「ルシカ・マクレーン卿。今日来てもらったのは、マクレーン子爵より、貴方の卒業後の身の振り方を相談されていたからです。出来ればマーク・ランドール個人に仕えてもらいたいのだけれど考えてもらえるかしら」
「は、はい」
「ちょっと待った。先輩、落ち着いて。叔母様、いきなりなんです。動揺したところへ不意打ちしないで下さい」
先輩の将来を左右する話だぞ。勢いだけで決めて良いわけないでしょう。
「彼は、マークちゃんの側近候補のリスト上位者。既に適性は確認済みです。マークちゃんがそうしたいと言うなら、候補全員を並べても良いですけれど。選ばれなかった者達にしこりが残るのは望ましくありませんわ」
候補リストって、いつの間に。
「本人が断ると言うなら、無理強いはしません。代わりの就職先も紹介しましょう。でも、マーク卿については、一切口を噤んでもらいます。ああ、王都からも離れてもらわなくてはね。マークちゃんと顔を合わせてもらっては困るから」
「叔母様っ」
それじゃ脅迫でしょう。
「いえ、マーク卿、ありがとうございます。侯爵閣下、謹んで拝命いします。わたくしは、自らの意志でマーク卿にお仕えしたく存じます。よろしくお願いいたします」
「ルシカ卿、嬉しく思います」
叔母様がにっこり笑った。言った。
「マクレーン子爵をこれへ。すぐ呼び出しなさい」
先輩、本当に良いんですか。
意外と全部叔母様の本気だったりして。
硬軟合わせての説得術、青少年を翻弄するには充分でした。
マーク君、なんだかんだで言いなりになることは有りません。先輩の明日はどっちだ。
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