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閑話 ある子爵の後悔

 ちょこっと寄り道。ルシカ・マクレーン先輩の父親視点です。

 私が王都のデイネルス侯爵邸へご機嫌伺(きげんうかがい)に訪れたのは、二年ぶりのこと。前回は、次男が貴族学園入学した挨拶のためだった。


 寄り親が侯爵家か伯爵家か。その差は如実に表れる。得られる有形無形の恩恵が、一桁違ってくるのだ。

 その一例が、通されたこの応接室。

 以前訪問したことのある伯爵邸のそれとは比べ物にならない広さと豪華さ。これで高位貴族専用の特別室より質素だと言うのだから大概(たいがい)だ。


 中位貴族の当主が通される部屋には、先客の子爵が二人に男爵が一人。自分の後からはさらに三人の男爵が案内されてきた。

 順番を待つ間にも、同じ寄り子同士の交流が持てるようになっている。規模は小さいながら、れっきとした社交界だった。



 

 マクレーン子爵家は特徴のないありふれた地方貴族だ。デイネルス侯爵領の隣りという地縁が無ければ、とても侯爵家の寄子に成れなかった。幸運と言う他ないだろう。

 私はその幸運を手にしたくて、男爵家の嫡男という地位を放棄した。女子爵の配偶者になる決断は、間違っていなかったと確信している。


 婿入りして最初に寄り親へ頼ったのは、生家に残った妹の婿を紹介してもらうことだった。 


 侯爵家の紹介はさすがだった。ずらりと並ぶ候補たち。

 従属伯爵家の四男、王宮に務める法衣伯爵家の三男、王領の代官を務める伯爵家の次男。

 そして寄り親を持たない子爵家の三男。

 

 従属伯爵家は侯爵家の直臣。

 法衣貴族は王宮に伝手を持つ家。

 王領の代官は領主と同等の権限があり裕福。


 何の旨味もない子爵家は、真っ先に候補から外した。当時は、何故格下の子爵家が混じっているのか不審だった。

 知らなかったのだ。その子爵家が婿に来られたエザール・デイネルス侯爵の生家だと。


 仕方がないだろう。誰が子爵家と侯爵家で婚姻が成立すると思うのだ。高位貴族と中位貴族だぞ。

 有り得ない。非常識極まる。


 分をわきまえた子爵家は、足を引っ張ることを恐れたのだろう。侯爵家の寄り子になることも無く、すり寄ろうとしなかったらしい。


 エザール卿の実弟を生家の婿に迎えることは出来なかったが、仕方が無いと諦められた。

 少なくとも、侯爵邸で話題に(のぼ)ったことは無い。妹の婿に迎えたところで、役に立たないなら意味は無い。

 そう思っていたのに。




 婿候補だった子爵家三男は、侯爵の伝手で男爵家に婿入りしたと言う。その後、妻子を連れて子爵家に戻り、当主となった。

 それを聞いて、心穏やかでいられるはずがない。


 妹の婿に迎えていれば、男爵令嬢から子爵夫人になったのは妹のはずだった。

 なんという運の無さ。逃がした魚は大きかった。


 しかもだ。魚はどんどん大きく育った。軍で功績を挙げ、子爵ながら将官に昇進し、さらには救国の英雄と呼ばれるに(いた)った。先日は伯爵へと陞爵する始末。


 なんと、何ということだ。あの時断っていなければ、今頃妹は伯爵夫人になっていたのか。

 ええい。悔やんでも悔やみきれぬ。

 私が、判断を誤っていなければ。




「マクレーン子爵様。御当主様がお呼びでございます」

 応接室の入り口で、接客係の上級使用人が私の名を呼んだ。


 女侯爵閣下、直々のお召とは何事であろうか。今まで言葉を交わしていた室内の御同輩が、探るような眼を向けてくる。


「おやおや、御指名とは羨ましいこと。何かございましたかな」

 順番を飛ばされた形の先客が、わざとらしい声を出した。


 そう言われたところで、心当たりは無い。叱責されるような落ち度も、褒められる覚えも無いのだ。

 吉と出るか凶と出るか。

 覚悟を決めて、私は接客係の後に続いた。







「マクレーン子爵。御子息のルシカ卿に就職先を紹介しましたの。丁度良い機会ですから、一緒にお話、お聞きなさいな」

 

 女侯爵閣下、御機嫌麗しく。

 そしてルシカ、何故お前が閣下の執務室に居るんだ。






 情報が重複するので、視点を変えてみました。


 オスカー君、上昇志向が強かったら、リアーチェ義姉様に適当にあしらわれて、ほどほどの出世しかしなかったかもです。

 王家の思惑やミリアちゃん関連のあれこれがどう作用したかは……やっぱり、出世させられてたんだろうか。


 お星さまとブックマーク、よろしくお願いします。明日はリアーチェ叔母様の執務室に戻る予定です。


 

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