馬車で行く王都観光
王都観光したい。はとバスみたいなサービス、あると良いな(笑)
不穏な会話が続く間も、馬車は順調に進んでいた。
王都へ向かう中央北部街道、略して北街道は、王都デルーアの北城門を境に北大通りと名前を変えて、王城まで真っ直ぐ続く。
通りに並ぶ商店は、進むにつれて規模が大きくなっていく。どの店も商品があふれ、人波が絶えない。
「にぎやかだなぁ。祭りみてぇ」
ライナーの声に、窓の外へ視線をそらした。
「まだまだ王都の端だぞ。これからにぎやかになってくから」
「へぇぇ」
ライナーがニカッと笑った。
「俺さ、行商のおっちゃんの荷馬車で寝泊まりしてたから、城門の中に入るの初めてなんだ。王都の事説明してくれねぇ」
「はっ。荷馬車で寝泊まり、ですか」
先輩が訊き返した。
それはそうだろう。僕だって初めて聞いたときは有り得ないと思ったんだ。
「うん、そう。おっちゃん、親切なんだぜ。荷物の積み下ろしとか雑用させてくれて、飯代タダにしてくれたし、寝場所を貸してくれたんだ。それにしてもこの馬車すげぇな。全然揺れねぇの。荷馬車とは大違いだ」
そりゃあ、侯爵家の紋章掲げた馬車だからな。見栄えも乗り心地も最高級だよ。
馬車を牽く馬だって見栄えのいい軽馬種だし、馬具からして見事な装飾付きだ。重馬種の牽く荷車とは別物だよ。
「それは親切と言って良いものか。労働の対価を払わず、未成年を働かせたのでしょう。搾取に当たりませんか」
「先輩の疑問は尤もですが、それ以前の問題なんです。ライナーは、まともな奨学金をもらっていない。旅費は未支給だし、授業料も将来返済するつもりでいるんですよ」
「それはおかしいですね」
「あ、なぁなぁマーク、あれ、何の店。すっげぇ人だかり」
僕らをよそにライナーがはしゃぐ。
「あっ、ほら、兵隊さんが馬に乗ってる。かっけぇ。あっちは外国の人。へぇ、あんな服初めて見た」
せわしなく左右に首を振って、お上りさん丸出しだ。今は馬車だから良いけど、一人で外を歩かせたら危なっかしくて仕方ないだろう。
「ちょっと目が離せないんです。分かってもらえますか」
僕の言葉に、先輩が大きくうなずいた。
特に区切りは無いけれど、明らかに雰囲気が変わった。
商店が姿を消し、ゆとりのある敷地に三階建ての住宅が並ぶ。
「ここからが貴族街になります。住宅のはほとんどが伯爵家。オーダーメイドの専門店が並ぶ通りもありますよ」
「へえぇ。お貴族様の町なんだ。先輩の家も有んの」
「はは、無理ですね。地方貴族の子爵では、王都に屋敷は持てません。持てたとしても、平民街ですね。伯爵家から高位貴族と呼ばれるのは伊達ではありません」
先輩の言う通り。ランドール家も子爵だったから良く解る。
「平民街って、貴族様でも家建てて良いの」
「あー、別に決まりってわけじゃないから。そもそも、貴族街とか平民街って言うのは、通称なんだ。正式名称は旧市街と新市街だよ」
「んじゃあ、貴族様は新しいところで平民は古いとこに居たりするんか」
ライナーの視点は面白い。知らないからこそだな。
「逆だよ。真ん中にお城が有って、王様が住まわれている。その周囲が貴族街。昔は貴族街だけが王都で、周りに畑が広がっていたんだ。どんどん王都の住人が増えて、畑が街になった。それが平民街。新市街と言っても百年以上経ってるから、古い家だってそれなりに在るよ」
「ふーん、そうなんだ」
更に馬車が進んで、またもや雰囲気が変わった。高い塀が長々と続き、建物が見えなくなる。
「えーと、これ、城壁か。にしちゃあ低いけど。王都の反対側に来ちゃったのか」
「違うよ。ここからは侯爵以上の高位貴族の屋敷が並ぶんだ。この壁は屋敷の塀だよ」
「は……」
「だから侯爵家の屋敷。馬鹿でかいし広いし、隣に行くにも馬車が必要なんだ。デイネルス侯爵家は四軒先だから、あと四十分くらいだよ」
「は、はあああぁあ」
ライナー、驚くなら、デイネルス侯爵邸を見てからにしような。
文章って良いですね。どんな豪邸でも書き放題です。
ライナー君、悲壮感ゼロ。少しもおかしいと思っていません。環境が違うと常識も変わります。
貴族と農民の常識の違いは大きいですが、高位貴族と中位貴族の常識の差はそれ以上です。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。週末更新、途切れないよう頑張ります。