マーク君の地雷
デイネルス家の従僕さん、空気になっています。乗客の邪魔にならない優秀な使用人。さすがは侯爵家です。
「オスカー義父さんはデイネルス侯爵家の紹介で、ツオーネ男爵家へ婿養子に入った。一人娘だったニーナ・ツオーネと結婚したんだ。将来はニーナ義母さんがツオーネ女男爵になって、オスカー義父さんがツオーネ男爵を名乗る筈だった」
ライナーが神妙な顔をしているけど、そんなに気にしなくても良いのに。
「正直、どんな話し合いがあったのかは知らないけど、ニーナ義母さんと義妹のミリアが家へやって来て、とても賑やかになった。オスカー義父さんは国軍の仕事が忙しくて、ほとんど家にいなかったしね。ニーナ義母さんは陽気でパワフルで、ミリアは可愛いし、毎日が楽しかった。だから僕は可哀そうな子供なんかじゃない」
これだけは言っておきたい。義父さんや義母さんのことを悪く言われるのは我慢できないんだ。
「なのにあの女、僕が家に居場所が無いなんてぬかしやがった。絶対に許せない」
思い出したらムカムカしてきた。どうしてくれよう、あの女。
「マーク、落ち着こうな、な。顔が怖ぇえよ」
「僕は落ち着いているよ。ああ、先輩、あの女の情報を教えて頂けませんか。まず敵を知らなければね」
「はい、分かりました。その前に謝罪申し上げます。我が叔母の家との関わり、昔の事と捨て置き下されば幸いです」
「ああ、その点については何も。昔の話ですから」
「笑顔が怖ぇえ」
聞こえているよ、ライナー。
「彼女はマリア。平民です。御存じの通り、奇行が多いことで有名です。思い込みが激しくて人の言葉を聞かない。無駄に行動力があって、特定の男子に執着する。成績は壊滅的。通常なら早々に放校処分になる筈なんですが」
「放校処分? って何」
「ああ、学園から追い出すってこと。なぜそうならないんですか。学園では身分序列より学力序列が優先されるはずですよね。その上、その女は平民なんでしょう」
「彼女は、特待生なんです」
先輩の答に口を噤んだ。また厄介な。
「あのー、二人とも黙っちゃって、どうしたん。特待生って、何」
ライナーの声で、一つ息を着いた。気持ちを切り替える。
「ライナー、教会で卒業試験を受けただろう」
我が国では、十二歳になったら教会で卒業試験を受けることが義務付けられている。問題用紙一枚ごとに採点して、満点を取ると次の問題用紙に進める。
平民は一枚目、貴族は三枚目まで満点を取らないと不合格になる仕組みだ。
「うん、受けた。それで八枚目まで満点取ったから奨学生に選ばれたって、村長が言ってた」
八枚か。平民、それも農民でそれは優秀だ。
「その試験、平民が最終問題まで全問正解すると、特待生になるんだ。学園の全てが無料。生活費の支給もある。そして学園で勉強する絶対の権利を保障される。貴族の嫌がらせや妨害で追い出されないように、どんな理由があっても、三年間は放校にならないと決まっているんだ」
「うっわ、すげぇ。俺も特待生になりてぇ。って、もう遅いか。んでもさ、卒業試験で全問正解したんだよな。なのに何で成績が壊滅的なんだ。ホントに、満点取った本人なんか」
「ライナー君の疑問はもっともです。非常に疑わしい。ですが特待生はどのような理由が有ろうと、罪に問えません。過去には、殺人の冤罪を掛けられた平民がいました。その事件以降、疑惑を申し立てる事さえ禁止されているのです。対処法は、卒業して特待生で無くなるのを待つだけです」
まさかあの女みたいな特待生が現れるなんて、想定外だったんだろうな。
マーク君、地雷を踏まれると、めっちゃ反応します。あの女は、完全に敵認定。
卒業試験については、本編第四章、「ミリアちゃん 王都の休日」参照のこと(笑)
お星さまとブックマーク、お願いします。連休も今日で終わり、明日から仕事だー。