ランドール家の三兄弟
本編の序章と第一章の復習になりました。マーク君視点です。
ライナーに説明するにあたって、少しばかり考えた。
なにしろライナーには貴族の常識と言うものが無い。説明の前提について説明していたら、時間が幾らあっても足りないだろう。
「ライナー、今から説明するけど、全部はしきれないから、ここまでって言ったら、それで納得してくれるかい」
「良いって。一度にたくさん言われても覚えきれねぇし」
よし、言質は取った。
ランドール子爵家は、王都近郊の直参貴族。三人の息子がいた。
長男が嫁をもらい、跡継ぎの息子が生れた。長男のスペアとして家にいた次男は、役目を終えて他家へ婿入りした。残った三男は騎士爵として独立して、外で働き始めた。
「ここまでは良くある話だし、別におかしいところは無いだろう」
「へぇ。スペアとか、お貴族様は大変なんだな」
「うん、まあ、そうだね。ここまでは普通だと思って欲しい」
長男が貰った嫁は、なんとバルトコル伯爵令嬢だった。貧乏伯爵ならまだしも、天下のバルトコル伯爵家が子爵家と縁付くなど普通は有り得ない。
「僕の母は、伯爵家の第三夫人の娘だった。女伯爵は王家の血を引く高貴な方だけど、配偶者の伯爵は分家の男爵家出身なんだ。僕の母方の祖母は平民だった。元男爵家次男と平民の間に生まれたのが僕の母。伯爵令嬢だけど、子爵家に嫁いでも問題にならなかった」
その結果、ただの子爵家令息が侯爵夫人の甥なんて歪な関係が成立したわけだが。
「なんで平民が伯爵家の第三夫人になれたかは、伯爵家の事情ってことで。うーん、ちょっと説明しすぎたかな。まあ、調べればすぐわかることだし、別に秘密ってわけじゃないから」
ライナーだけでなく、馬車に同乗している先輩も真剣な顔で聞いている。
「僕の両親以上に有り得ないのが、次男の婿入り先。子爵家から侯爵家へ婿入りしたのが、僕の叔父のエザール・デイネルス侯爵。なぜそんなことが可能だったかは、省略しておく。気になるなら調べればわかるから」
本当に大変だったと聞いている。王家に直談判したというデイネルス女侯爵の武勇伝は、僕の耳に届くほど。
リアーチェ叔母様ならと、納得してしまえる女傑っぷりが怖い。
「残った三男は騎士爵。一応説明すると、家を継げない貴族の子弟が独立する時、準男爵か騎士爵を無条件でもらえるんだ。貴族だけど特権は何も無し。一代貴族で子供は平民になる。肩書だけで扱いは平民と変わりない」
先輩が大きく頷いた。
「私も次男ですからね。卒業したら騎士爵を賜って家を出ることになります。それでも肩書が有ると無いとでは大違いです。貴族向けの仕事に就くことが出来ますし、寄り親に就職の斡旋を頼めますから」
「そうなんだ」
「続けるよ。侯爵夫妻の義弟が騎士爵ではさすがに外聞が悪い。そこで侯爵家の斡旋で婿入りが決まったんだ。その時の縁談の一つが、さっきの先輩の話だよ」
ライナーが顔を顰めた。どうやら矛盾に気付いたようだ。
「あのさ、その三男って言うのが、オスカー・ランドール大将なんだよな。ランドール伯爵になった」
「そう」
「で、マークは伯爵家長男。そんじゃあ、マークの父ちゃんはどうしたんだ」
「山間の街道でね。落石事故が起きたんだ。父の馬車がそれに巻き込まれた。僕はまだ四歳で、気が付いたらオスカー義父さんの養子になっていた」
僕の一番古い記憶は、父の葬式。喪服を着たリアーチェ叔母様に抱きしめられたことを覚えている。
父の顔は肖像画でしか知らない。声も覚えていない僕は薄情なんだろうか。
今日はここまで。書き切れないので、二回に分けます。次回で終われるかどうかは、不明です。
ライナー君の待遇問題まで、後どれくらいでたどり着けるでしょうか(;^_^A
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