久々の学園
お待たせしましたー。ちょっと長めです。
トマーニケ帝国への往復は、僕にとって帝国皇太子のお世話係という任務だった。せっかくの長期休暇を仕事で潰されたようなもんだ。
まあ、楽しい旅行ではあったけどね。
デパ国へ帰って来ても、ラインハルト君を学生寮へ送り届けることが最優先。どこにも寄り道無しで学園まで帰って来た。
近衛騎士の威光は大したもので、馬車禁止の学園内までキャンピングカーモドキを乗り入れられた。
まだ休暇中でそれほど騒ぎにならなかったけど、ちょっとした人だかりができるくらいには目立ってたよ。
「お帰りー、無事で良かったよー」
学園の寮の自室のドアを開けたら、ライナーが迎えてくれた。ホントにホント、嬉しいよ。ようやく日常が戻って来た。
「久しぶり。ライナーの顔見たら、帰って来たって実感わいたよ」
「ありがとなマーク。旅費出してくれたおかげで、開拓村まで里帰りできた。正直、卒業するまで帰れねぇって思ってたから、すっげえ嬉しい」
あー、ライナー、昔の口調だ。生まれ故郷で随分リラックスできたんだな。
「王都の伯爵邸には顔出したか。俺、奥様に帰還の挨拶したいし、お礼伝えたいし。まだなら一緒に行かねぇ」
「良いけど、一休みさせてくれ。皇子様送って直接学園まで来たから、正直疲れてるんだ」
「わーった。んじゃあ、大浴場行くか。今なら空いてるし、のんびりできるって」
お、良いな。
学園の大浴場、半分露天風呂になってて最高なんだよな。トマーニケ帝国の王太子宮にだって、こんなに贅沢な風呂は無かったし。
ひょっとしてデパ国の王宮以上だったりして。文字通り世界一だな。
「家に帰るなら、ミリアに声かけないと恨まれるよな」
風呂あがり、寮の廊下を歩きながらポツリと言ったら、ライナーに聞こえてた。
「えー、ミリア様、学園に来てるの。伯爵邸に直帰しなかったんか」
「キャンピングカーモドキを返す時に一緒に乗ってって良いって言ったんだけど、友達が戻って来てるなら久しぶりに会いたいって」
家族より友達って年頃だからな。だからって黙って置いてったら拗ねるだろうし。
女子寮は男子寮と芝生の広場を挟んだ隣。芝生を突っ切れば五分で行ける。ただし、玄関まで大回りしないといけないから、ちゃんと通路を使った方が早い。
寮内は男子禁制だから、エントランスホールまで呼び出してもらわなきゃいけないんだけど。
女子寮の玄関脇に、職員の待機場所がある。さすが貴族学園と言うか、そこらへんの管理はしっかりしてるんだ。
「すみません、面会希望なんですが」
「はいはい、おやおや、これはこれはマーク卿ですか。はい、こちら」
年配の女性職員が慣れた様子で差し出してきたのは、面会申し込み書。
必要な項目は、自分の名前と学年とクラス、呼び出し相手の名前、要件、希望時刻、不在の場合の伝言の有無。
備え付けのペンでサラサラと書き込んでいたら、玄関のドアの向こうが賑やかになっていた。
「マーク先輩、こっち向いて―」
「きゃあ、ミリアのお兄様って素敵―」
「隣、ライナー様よ。カッコイイ」
女三人寄ると姦しいって言うけど、女子生徒の集団の熱気が凄くて圧倒されそう。
キャアキャアと、絶対揶揄われてるよな。これ。
「あの方、去年の男子寮の会長よ。三年生のAクラス」
「えー、じゃ、身分序列一位ってことよね。婚約者はいらっしゃるのかしら」
「まだよ。フリーですって。伯爵家だから、中位貴族でも可能性有り」
「超優良物件じゃない」
揶揄われてると言うより、狙われてるけど。ほとんどノリだからなぁ。本気で迫られたりしたらドン引きするよ。
「どうしたの、マーク兄様」
職員さんに呼び出してもらわないうちに、ミリアの方がエントランスへ出てきた。これだけ騒いでいれば気になるか。
さっと人垣が割れてミリアを通してくれた。
「あ、ライナーさん、久しぶり。あれ、ちょっと日焼けしたかしら」
ミリアの親し気な様子に、キャーッと黄色い声が挙がる。
「ミリア様、ご無沙汰申し上げます。故郷に里帰りしておりました。お気にかけていただいて恐縮です」
おお、ライナーのスイッチが入った。さすがキャサリン母上仕込みの礼儀作法、完璧だよ。
ミリアもお澄ましして淑女の笑顔になった。
「えー、まだ友達とおしゃべりしてたいもん。休みの間の話がいっぱいあって時間がもったいないの。兄様だけで帰れば良いじゃない」
ミリアお前な、もうちょっと取り繕えよ。淑女の仮面剥がれるの早すぎだよ。
本当に久々の学園です。タイトルを尊重しなきゃですよね(笑)
マーク君、公爵家の養子になったら、完璧に高嶺の花。伯爵以下では相手にされなくなります。それが今までのデパ国でしたが、これからどうなるかは………。
脱封建社会を目指す王様たちの頑張り次第です(笑)
お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。