タコ無しは美味しいか
大変遅くなりました。キリの良いところを見つけられず、短すぎる二話をくっつけて一話にしました(;^_^A
「今日だけの特別企画! 全品無料のお試しセールだよ。ほらほら、一口だけでも試してみてね」
逞しいと言うか何と言うか。ミリアは来場者の間を泳ぎ回って、屋台料理を勧めまくった。
貴族の子弟に立ち食いはハードルが高すぎるから、用意されたテーブルと椅子へ移動していただいた。
馴染みのない食べ物を前に、腰が引けているのは仕方がない。
それでも、デパ国の準王族待遇聖女様のお勧めじゃあ、拒否できない。恐る恐る口にした皆さんだったけど。
美味しいでしょ。今まで食べたことのない味でしょ。神代のビーキューグルメってヤツなんだよ。
「この丸いのはね、ホントはたこ焼きって言うの。でも、タコが手に入らなかったのよねー。代わりにソーセージやチーズをダイスにして入れてあるの。なんとか海産物の入手ルート欲しいんだけど、神の恩寵の運河で漁業してくれる人いないかなって」
物おじしないミリアは、帝城の使用人を指揮してどんどんテーブルへ配りまくる。
次から次へとやって来る新しいメニューに、緊張はどこへやら、いつの間にか笑顔の食事会になっていた。
さすが若いと順応が早いや。
保護者の方々もつられたように空いてるテーブルに座って、自家の使用人が調達してくる屋台料理を口にしている。
話題に付いて行けなくなるのは拙いから、経験しとかなきゃなんだよ。
貴族の付き合いって大変だ。僕も将来やらなきゃいけないんだけど、本当に面倒だなぁ。
翌日。帝城にて二日目の貴族会議が開かれた。
前日より参加者が増えたのは、遅れて帝都に到着した遠方の者がいるからだ。
議題は引き続き、デルスパニア王国との外交方針について。
しかし、議場の雰囲気は、昨日とはまるっきり様変わりしていた。
「王太子宮にて、デパ国の一行と顔を合わせた者に聞く。どうであった。率直な感想を述べるが良い」
皇帝の一言に、戸惑いが場を満たした。そこここで顔を見合わせて、誰が口火を切るか窺っている。
「恐れながら」
末席より声を挙げたのは、まだ若い男だった。
「デパ国の聖女と近衛騎士が居ること、皇太子殿下のお言葉があるまで気づけませんでした。己の無知に恥じ入るばかりでございました」
「確かに」
「そうですな。まさかあのような見すぼら……いや、簡素な衣装の者が聖女だなどと」
「まるで使用人のように給仕して回ったとか。育ちがうかがえますな」
「そうそう、平民にしか見えません。分からなくて無理はないかと」
「あれで近衛騎士だなどと、ただの警備兵かと思いましたぞ」
気づけなかったのは見すぼらしい恰好をしていた相手のせい、自分は悪くない。そんな声があちこちから挙がった。
「無知とは怖いものだな」
皇帝の言葉で、静寂が戻る。
「聖女様がお召しになっていたのは、デルスパニア王国中央高等学園の制服だ。デパ国の王都では、貴族の子弟と一目で分かるそうだが。我が甥、ラインハルトが彼の学園へ入学したと知っておろう。当然、学園について調べているものと思っていたが、余の買い被りであったか」
誰も反論できず、悔し気な顔になる。
皇帝ターレンは、内心でガッカリしていた。
表情に出すな。せめて無表情ぐらい取り繕え。見え透いた言い訳するぐらいなら、これからどうするべきか主導権を握るくらいの気概を持て。
現在、帝国の最高位は伯爵どまり。小国の王家にルーツを持つ公爵家と侯爵家は、後継者未定のまま空位になっている。
良くも悪くも、派閥の長が不在なのだ。
やはり、これを機に中央集権へ舵を切るべきか。ラインハルトへ帝位を譲るまでに、帝国を立て直さなければ。
「デパ国から申し出があった。留学生の受け入れを拡大して良いと。また、現在は王都デルーアのみにある王立学園の分校を、全国の王領に新設する予定だそうだ。我が帝国に至近となるは、元バルトコル伯爵領だ。余は、爵位継承の条件に留学を定めようと考えている」
横暴だと反対意見が飛び交って当然の場面。
なのに、誰からも声が挙がらない。言い出しっぺになりたくないのだ。
情けなさを感じながら、皇帝は声を張り上げた。
「卒業せよとは言わぬ。短期で構わぬ。とにかく留学してくるように。少なくとも、我が甥の側近は、留学経験が無ければ任せられぬ」
側近との言葉に、貴族たちの目の色が変わった。
「これから神の恩寵の運河を活用した交易が始まる。既に国内に閉じこもる時は過ぎた。目を他国へ向けなければならぬ。デパ国の王立学園は体系だった知識を得られる場所ぞ。子弟に限らぬ、自身で体験するも良し。有用であれば、将来我が帝国に教育制度として模倣すること、やぶさかではない」
反発はあるだろう。面従腹背はいつものこと。それでも表立って叛逆はするまい。
いっそクーデターを起こすほど腹の据わった者が居てくれたら。
さっさと退位してラインハルトを連れてデパ国に亡命できるかもな。
そんなあり得ない妄想に現実逃避したい皇帝だった。
末席から声を挙げた若い男、皇帝陛下の用意したサクラです。知識不足を話題にして善後策に持って行こうとしたのに、出てくるのは言い訳ばかり。陛下はお冠です。
学園の分校の話を持ってきたのは、近衛騎士のキリー・オートルです。オートル侯爵家は外交を担当してますから適任ですね。
国王代理としての発言なので、皇帝に信用してもらえました。
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