帝城
お待たせしました。先週更新できなかった分も加えて、ちょっと長めです。
帝国の騎士の先導のお陰か、帝城へはすんなりと通された。
通されたんだけど………。
えっと、ここ、皇帝の住まいですよね。国政の中心ですよね。どう見ても武骨な砦なんですけど。
見上げる高さの城壁を入ってすぐの場所に、申し訳程度の花壇があった。その外側のむき出しの土の広場は、どう見ても砦に付随する練兵場。
今は馬車の待機場として使用されているけど、臨時に設置しました感がすごい。
見える範囲で民間人は皆無。役人か兵士ばかりだ。
デパ国も王城入ってすぐは広場だけど、綺麗に芝生が植わっていて明るい雰囲気だよ。公園として開放されていて、子供たちの歓声でいっぱいの場所だよ。
色々聞かされてたけど、ここまで空気が違うとは思わなかった。お国柄の違いってやつを実感した。
先導の騎馬は、そのまま正面の砦へ進んで行く。
皇太子殿下の帰還なんだ、形式ってやつが必要なんだろうけど不用心じゃないか。こっちは得体の知れない馬無し馬車なんだけど。誰何しなくて大丈夫か。
「皇子様、もう帝城に到着してるよね。どこまで進むのかな」
ラインハルト君に聞いたら、侍従のオジサンが盛大に咳払いした。
「帝城内は公の場になります。デルスパニア王国の品位に相応しい態度をとられること、ご忠告申し上げます」
うん、尤もだね。ここは学園じゃないんだし。
僕はそう納得したんだけど、ミリアは不満だったらしい。
「えー。私たち、友達の里帰りに同行しただけなんだけど。これって私事だし。公式訪問じゃ全然ないから。あ、じゃあ、帝城に入ってきちゃ駄目だったんじゃない。外へ戻って、ハルト君だけ迎えに来てもらえば良っか」
近衛騎士のゼルム卿が、にっこり笑った。
「それが妥当でしようね。正式な招待を受けていませんからお暇するべきでしょう。あくまで学生の旅行ですので外交特権の対象にもなりませんし」
それ、絶対後付けでしょ。聖女様の仰せのままにって思ってるでしょ。
無断で入って来たんじゃなくて帝国騎士の先導に従ってるだけだから、問題無いでしょうが。
ゼルム卿の指示でキャンピングカーモドキが急停止したら、先導の帝国騎士さんがどうしたのかと慌てて確認してきた。
ゼルム卿が堂々とした態度で交渉開始。
そもそもデパ国の近衛騎士は国王代理の権限持ち。ゼルム卿はカース公爵令息で、王位継承権を保持してる。
おまけに準王族の聖女様までいるんだ。格が違い過ぎて、一介の騎士風情では対応できないよ。
責任者呼んで来い状態だなって思ったけど、実際は、責任者呼んで来ますからどうかお待ちくださいだった。
慌てて城内へ駆け込んでいく騎士の方々が気の毒だったけど、僕はただの学生。こんな風に思うのは、とても失礼なことだろう。
「皇太子殿下とデルスパニア王国の御一行には、皇太子宮へお入りいただきました。お乗り物も皇太子宮の前庭にお停めしてございます。帝城警備隊の半数を差し向けました。主家の違う騎士五人で組ませて、相互監視体制を徹底しております。また、皇太子宮内には、デルスパニア王国近衛騎士、ゼルム・カース殿とその部下の方々が待機しておられます」
端的な報告に、トマーニケ帝国皇帝ターレン・エル・ファング・トマーニケは大きくため息をついた。
「デパ国近衛騎士が直接警護にあたるなら、安心だな。自国の騎士を信頼できないとは、情けない限りだが」
「陛下………」
数少ない忠誠を寄せてくれる臣下を前に、ターレンは気持ちを切り替えるように笑みをつくった。
「せっかく帰って来たのだ。顔を見に行こうではないか。皇太子宮へ先触れを」
「お待ちください。それでは示しがつきませぬ。こちらに呼び出すべきと存じます」
「それでは無礼であろう。聖女様が足をお運びくだされたのだぞ」
「しかし」
ターレンが片手をあげて、言葉を止めた。
「言いたいことは分かる。しかしな、本宮に呼び寄せるとなれば、公式訪問として扱うことになる。デパ国との力関係を正式に定めるとなると必ず揉めるぞ。国の面子がどうの、皇帝は弱腰すぎるだの、必ず騒ぐヤツがいる。ここはあくまで非公式訪問で押し通す方が利になる」
「左様でございますか」
彼はそれ以上何も言わず、主君に一礼した。
しかし、皇帝の本音は。
『事なかれ主義と言わば言え。政治の駆け引きより、叔父と甥のひとときの方がずっと大事だ』だった。
なんとか到着。うーん、ラインハルト君狙いの公爵令嬢とか出そうかな(笑)
キャンピングカーモドキのスピードに任せて色々振り切って来たので、お邪魔虫の貴族連中は不在ですが、一週間もすれば帝城に集まって来てやいのやいの言い出すでしょう。
一度にまとめて相手するなら、歓迎パーティー開くとかあるかな。
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