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ある侍従の困惑

 あのオジサンのモノローグです。名前も出てこないモブだけど、オジサン、頑張れ。

 私はデルスパニア王国の王都、デルーアに居た。

 元々はデパ国へ留学された皇太子殿下のお付きとして来たのだが、お(そば)(はべ)ること(あた)わず、忸怩(じくじ)たる思いである。

 部外者立ち入り禁止の学園、デパ国の王族にも適用されるとなれば、殿下の特別扱いをごり押しできなかった。


 いや、国力を挙げて交渉すれば可能だろうが、見返りがあまりに釣り合わない。

 聖女の護衛と言う名目で、デパ国の誇る近衛騎士を学園内に配置していただいている。これ以上の要求は帝国の弱みになろう。その程度の判断はできる。


 そもそもトマーニケ帝国の皇族が他国へ留学など、前代未聞。それも選りによって数年前の交戦国、デルスパニア王国になど、言語道断と言うべき暴挙。

 実質、人質ではないか。


 (まこと)に以って情けないが、それでも帝国内に残るより安全なのだ。


 敗戦の混乱はなんとか治まった。内戦による主要貴族の没落は権力の空白を作り、新たな派閥争いが激烈の度合いを増している。

 皇帝陛下は無能ではないが善良であり、後ろ盾が弱いことも相まって、強権発動に二の足を踏んでいらっしゃる。

 様々な思惑で皇太子殿下に(あだ)なそうとする(やから)を排除しきれないのだ。


 私とて、主家の思惑により皇太子殿下の侍従となった。皇太子殿下に、いや、皇室に絶対の忠誠を誓っているかと問われれば、正直、否と答えざるを得ない。

 しかしながら。


 デパ国へ来て、私は主家を(こと)にする同僚三人と一纏(ひとまと)めに、帝国人と呼ばれた。

 それまで、自分がトマーニケ人だと意識することはなかった。重要なのは主家と領地、国益など考えたこともなかった。

 それが国外に出たことで、初めて国籍と言うものを意識したのだ。


 そして思った。

 よくもまあ、我が祖国はデルスパニア王国へ戦争を吹っ掛けたものだと。


 デパ国が強大であることはもとより承知していた。だが、質の差がここまであるとは思わなかった。

 まず、高位貴族の権力闘争が存在しない。

 もちろん、細々とした鞘当や競り合いはそこここで見受けられる。しかし、侯爵以上の家格となると、挙国一致体制が敷かれている。

 外国人が見聞きできる表面だけだとしても、あまりにも帝国とは違い過ぎる。


 整備された道路。商品の溢れた商店。行き交う馬車。平民の表情は明るく、信じられないことにスラム街が存在しないという事実。

 平民向けの服屋でぶら下がっている商品が、古着ではなく全て新品だと言われた時の衝撃。忘れられるものではない。


 帝国は、負けるべくして負けたのだ。





 皇太子殿下がデパ国の聖女と共に帝国へ里帰りされることとなり、私は侍従の務めを果たすべく同行を願い出た。

 同僚三人を出し抜けたのは僥倖だと思ったものだ。

 まさか、馬無し馬車という不可解なモノに乗る羽目になるとは、予想もしていなかった。


 常識外れの事態が連続して、心身ともに極限状態だった自覚はある。

 自国の平民のみすぼらしい姿に気落ちしている余裕などなかったのは、幸いと言えるのだろうか。


 これだけは言いたい。


 皇太子殿下、非常識に馴染み過ぎです。



 カルチャーショックで落ち込んでたオジサン。結構真面目な方でした。

 キャンピングカーモドキのスピードで目を回したり、ミリアちゃんに振り回されたり、いろいろ被害を受けてます。


 とあるアフガニスタンの難民の方、それまで部族への帰属意識しかなかったのに、他国で初めてアフガニスタン人としての自覚を持つという経験をされたそうです。

 SFでも、宇宙人と接触して初めて自分は地球人だと意識するシーンがあったりします。

 アイデンティティって、比較できる他者が必要なんですかね。


 お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。





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― 新着の感想 ―
割とシンプルな話としても、名前をつけるのは個として他のものと区別するためという点があり、別の大陸を知らなければ「この地」だけで事足りるのですよね この点で、異世界物で「自分たちが住む世界に名前がついて…
馴染み過ぎと判断出来る程度には馴染んでるって事やぞ、おっさんも 馴染んで無ければ尊d・・高貴な姿勢を崩さす傲m・・寛大に接しているって判断しとるやろうし
外国に出て初めて国籍を意識するってのはよくわかる。さらに旅行と、住んでみるのも全然違う。 旅行は所詮お客さんだからね。
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