帝都トマニア
大変、大変お待たせしました。投稿再開します。
「ラインハルトが帰って来た、だと」
トマーニケ帝国皇帝ターレン・エル・ファング・トマーニケは、自分の耳を疑った。
ラインハルト・ゲオルグ・ウィリアム・カスパーニ・ジョゼフ・ジャン・ボナパルト・トマーニケは、彼の甥にして皇太子である。
複雑な政治情勢から身の安全を図るために、隣国デルスパニアへ留学と言う名目で避難させていた。
デパ国に敗戦した戦後処理と内乱でガタガタになった国内情勢。それらを一手に引き受けて、兄の遺児へ無事帝位を渡すため粉骨砕身しているターレンにとって、ラインハルトの帰国は予想外だった。
「王都デルーアから我が国までは、ふた月はかかる。学園に入学してすぐに取って返してきたと言うのか。デルスパニア国王にはくれぐれもと依頼したはずだが。先触れは何と言っておる」
単騎で先行した伝令が到着したばかりなら、ラインハルトは国境を越えたあたりだろう。
国境から帝都トマニアまでは、馬車で半月ほど。すぐに迎えの護衛を送らなければ。
「恐れながら陛下、皇太子殿下は、既に帝都に到着なさっておいでです」
「なんだと。ならばなぜ今まで報告が無かったのか」
皇族が国内を移動しているのだ。様々に情報が届いてなければおかしい。
「デルスパニア王国の乗り物にて、移動されました。驚異的な速さでございます。早馬よりはるかに速く、伝令も先触れも置き去りにされております」
膝をついて報告する臣下を前に、皇帝のみならず居合わせた宰相と政策補佐官達は、ポカンと口を開けたのだった。
キャンピングカーモドキは、先導する帝国の騎士に合わせてゆっくりと帝都内を進んでいる。
デパ国では馬無し馬車として認知されつつあるが、帝国では正真正銘の初披露。掛け値なしの注目の的だ。
窓の外に見える顔は、どれも戸惑いか好奇心を浮かべていた。
ま、そうなるよね。
「帝都って言っても、うちの地方都市くらいかなぁ。バルトコルの領都くらいじゃない、マーク兄様」
ミリアの遠慮の無い言葉に、護衛として同行している近衛騎士のキリー卿が返した。
「バルトコル家は伯爵家筆頭でしたからね、伯爵としては規格外でしたよ。規模としては侯爵家に近いでしょう」
へえ、そうなんだ。
グッと苦虫を噛み潰したのは、皇太子ラインハルトの侍従を務める帝国貴族のオジサン。入学式の時に、学園長室で騒いでた人だ。
学園から部外者立ち入り禁止で締め出し食って、ずっと王都デルーアで外交官してたって。
ラインハルト君を残して帝国に帰る訳には行かないし、行き場が無くて困ってたらしいんだけど、詳しくは知らないや。
「我が国は元々が小国の集合体だ。中央集権とは程遠い。ここ帝都も名ばかりで、突出して大きくはない。同程度の人口を持つ街はいくつも有る。逆に言えば、帝都が小さいからと言って国が小さいわけではない」
ラインハルト君、随分なぶっちゃけ具合だね。オジサンの顔が引きつってるよ。
「ふうん、そうなんだ。帝国って名前だから、皇帝が絶対権力持ってるのかと思ってた。中央集権じゃない帝国ねぇ」
ああ、ミリア、もっと言葉を選ぼうね。
「形式的には、何も間違っていませんよ」
キリー卿が爽やかに仰った。
ここに来るまでも色々と解説してくれてたんだけど、そのどれもがドンピシャと言うか、的を射ているというか。さすがはエリートの近衛騎士、凄いと思う。
「複数の国家をまとめ上げて統治するのですから、皇帝で間違いありません。帝国としての体裁を整えるために、各王家が高位貴族に名称を変更しましたが。実態は軍事同盟を組んだ諸国連合ですね」
「ふうん。貴族の力が強い君主制かぁ。なんか、戦国大名に成り損ねた守護大名みたい。大河ドラマの毛利元就の序盤がそうだったなぁ」
またまたミリアが意味不明な単語を並べだした。神代古語に違いないけど、もう突っ込まないぞ。
「ミリア嬢、それはどういう意味なのだろうか」
「私の前世の話。そこで見た劇に似たような話があったの。地域密着型の豪族のまとめ役で苦労してた大名、ああ領主って言った方が分かるかな。時代や規模が違っても、人間って、やってることは同じなんだよねぇ」
ラインハルト君がスンとした。
「やはり、ミリア嬢は転生者なのだな。経験と人生の重みが伝わってくる」
あああ、ラインハルト君、それを言っちゃダメ。
「誰が年上よ。私は十五歳の乙女なんだからーっ」
体調不良のため、お休みいただきました。報告が遅れてごめんなさい。
帝国にやって来たミリアちゃんたち。話してる内容はかなりハードですが、雰囲気はワチャワチャしてます。侍従のオジサン、胃が痛いでしょうね。いや、我が国を馬鹿にされたと憤っているかも。
え、帝国までの旅程はすっ飛ばしたのかって。
だって、詳しく書き出すと延々と長くなっちゃって、話が終わらなく………。
ラインハルト君を主人公にした帝国物語に成りそうで、マーク君の学園生活から脱線し過ぎだと判断しました。ご了承下さい。
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