義妹は転生者
王宮へ移動します。
王城は一般公開されている庭園や行政機関を含みます。王宮は王城の奥、王家のプライベート空間と大臣級の家臣の執務室がある場所です。
嬉々としてラインハルト君の里帰りを計画するミリア。僕にはわかるよ、お前も一緒に行くつもりなんだろ。
聖女様がホイホイ隣国へ足を延ばすなんて、普通なら大問題になる筈なんだけどな。
なんだかんだでミリアの希望が通るのは確定事項だ。
ただの称号じゃなくて、本物の聖女様。突拍子も無い神託をいろいろ披露するし、神の祝福だって下ろしてしまうし。
あの王都中に鳴り響いた天上の音楽は、ミリアが聖女だって強烈に印象付けた。国際連携機構の設立記念式典に参加していた群衆全員が証人だ。
数日の内に国中に広まって、他国でも上層部には知れ渡ったそうだ。
神の恩寵の運河という動かぬ証拠があるんだ。信じるしかないだろう。嘘や誤魔化しが入る余地はない。
公式には準王族待遇になってるけど、実際は王族以上。学園内での近衛騎士による護衛なんて、王太子殿下でも受けてない。
そんなミリアが自由意思で国外へ出ると言ったら、どうなるか。
国王陛下は引き留めようとするかな。
近衛騎士の皆さんの様子を見たら、陛下まであっさり仰せのままにと仰りそうで怖い。
ここだけの話、国王陛下がミリアへ頭を下げているところ、実際にこの目で見てしまったこともある。 王家はミリアの行動を制止できないんだ。
とりあえず、学園の敷地から出なきゃいけない。この際だから近衛騎士の皆さんに馬車を用意してもらって、ラインハルト君を王城へ送り届けることにした。ミリアも一緒だ。
ほんとに、僕の手には負えないよ。
「とにかく、外交だって絡んでくるんだから、国にお伺いたてないと不味いだろ。ミリアだって行く気満々じゃないか。学園の外に出るなら、個人でどうこうって問題じゃなくなるんだからね」
「えー、私、海外旅行してみたいもん。友達の家に御呼ばれするだけじゃん。お兄様のイケず」
「カイガイリョコウって何。それも神代古語か」
またミリアが知らない言葉を使いだした。
「あのね、前世のニホンは島国だったの。だから他国は全部海の向こう。外国へ行くことを渡航とか海外旅行って言ってたの」
島って、あの、川や湖の中の陸地のことだよな。国が成立するほど巨大な島なんて、ちよっと想像できない。
ああ、神の恩寵の運河は向こう岸が見えないほど広いし、海にならそれだけ大きな島があっても可笑しくないのか。
「ミリア嬢、貴女は転生者なのか」
ラインハルト君が目を見張った。
「そうだよ、ハルト君。言ってなかったっけ。あれ、聖女様情報って、そんなに出回ってないの。みんな知ってると思ってたけど」
ミリアはあっけらかんとしたもんだ。
「そんな。それじゃ、ミリア嬢はずっと年上なのか」
「なんて顔してるのよ。それに女性に年齢の話は失礼だわ。と言っても気になるでしょうから。私は十五歳、ハルト君と同い年よ。ちょーっと、生まれる前の自分を覚えてるだけ。うーんと、ハルト君だって、小説読んだり劇見たりするでしょ。そんな感じで、自分の物じゃない知識が有るの」
ミリア、そんな説明じゃわからないと思うぞ。
「皇子様、二年生になったら必須の一般教養で転生者について習うから。成り済まし詐欺対策が主だけどね」
本物の転生者はミリアとあの迷惑女しか会ったことないけど、自称転生者の詐欺事件は年に何度か世間を騒がせる。
「皇子様、五歳の時の思い出あるだろう」
ラインハルト君が頷くのを待って、続ける。
「五歳だった皇子様は間違いなく君自身だ。だけど、今の君は十五歳。逆立ちしたって五歳の子供には戻れない。記憶を共有してる別人だよ。ミリアの前世はミリア自身に違いないけど、今のミリアとは別物なんだよ」
だから、義妹は間違いなく十五歳の少女なんだよ。分かってもらえたかな。
マーク君、心の中てはラインハルト君呼びしてますが、口に出す時はニックネーム扱いの皇子様で呼び掛けます。ややこしくてごめんなさい。ミリアちゃんはハルト君呼びです。
次回は王宮かな。
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