外出しよう
ちょっと設定をば。本編でも書いてますけど、覚えている人いるかなー(笑)
乗合馬車は路線バス、辻馬車はタクシーと思ってください。
デルスパニア王国は、伝統ある大国だ。周辺国のどこよりも長い歴史を持ち、王家は建国以来、一度も途切れることなく続いている。
同様に建国から続く名家が公爵家と侯爵家。どの家もどこかしらで王家の血を取り入れていて、王位継承権を保持している。
まあ、数百番台の順位では、有って無いようなものだが。
伝統の最たるものは、それらの家のご先祖様が、天津神だと言う伝承だろうか。
天津箱舟に乗ってこの地にやって来た天津神。作物を与え、法を創り、国を興した。子供の絵本になっている御伽噺だ。
昔から伝わるものには、天津神が定めたという権威付けが散見される。度量衡や時間の単位などもその例だ。
「一日二十五時間で一月二十五日。だったら一時間二十五分でも良いんじゃねぇ。何で六十分なんだろ。一分六十秒ってのもさぁ、五十秒じゃダメなわけ?」
ライナーが子供のような文句を言ってる。
「しょうがないだろう。『天津神の決めたまうこと』だよ」
「そうだけどさぁ」
「それに全部五の倍数になったら、一週間が五日だけ、週末の二日が消えるけど」
「えーっ、そりゃヤダ」
「そもそもだけど、一年が三百五十日っていうのが基準じゃないかな。五十日が七回で一年。一月五十日は長すぎるから半分にして二十五日。一年十四ヵ月になった理由だよ。五日働いて二日休むのが基本だけど、仕事によっては五ヵ月働いて二月休むこともあるし。五進法と七進法の複合だね」
どうでも良いことをグダグダ話しているのは、貴族学園のある自然保護区の森、その入り口。今日は王都へ出かける学生でごった返している。
稼ぎ時を逃すまいと大型の乗合馬車がひっきりなしにやって来るが、マークとライナーが待っているのは辻馬車だ。
行き先を自由に頼める辻馬車はたまにしか来ない。列は短くても、なかなか順番が回って来ないのだ。
少し離れた場所には、家の紋章を飾った貴族の馬車が主を待っている。そちらに目をやりながら、迎えを頼んでおけばよかったかなと少しばかり後悔した。
「まあまあまあっ」
甲高い声が突進してきた。振り向いた先には、三年生を示す赤いリボンの女子生徒。
「げっ」
ライナーがあんまり上品じゃない声を出した。気持ちは分かる。
周囲の生徒がささっと避けて、道ができた。見事な嫌われっぷりだ。
「マーク様、ここにいらしたのね。王都にお出かけですの。わたくしもご一緒したいわ」
いやでも視線が集まる。新入生は好奇心、上級生は同情。名乗りもしない女子生徒の、今までのやらかしっぷりが伺える。
こういう手合いには、きっぱり拒否しないと。
「お断りします。理由がありません。それと、見ず知らずの他人に名を呼ばれるのは不愉快です」
「見ず知らずだなんて、悲しいことを言わないで下さいませ。わたくし、マーク様のことを誰よりも理解できますのよ。マーク様、お家に居場所がございませんでしょう。寮に残られるのがお嫌なら、わたくしが王都をご案内いたしますわ」
何言ってるんだ、こいつ。
「行こう」
ライナーの手を引いてその場を離れた。こんな女、無視だ無視。
「マーク卿、こちらへ」
声がしたのは、ちょうど前を通りかかった貴族の馬車。急停車して、目の前でドアが開いた。
「ご挨拶は後程。どうぞお乗りください」
いつもならこんな誘いに乗ったりしない。相手の詳細も分からないのに手を借りるなど、後が怖い。
だけど今はありがたい助け舟だ。
「助かります」
一言で了承を伝え、ライナーの手を掴んだまま馬車に乗り込んだ。
「ちょっと、待ちなさいよ、マーク様、待って下さいませ」
女の声を置き去りに、馬車が動き出した。
「災難でしたね」
正面に座るのは、三年生の男子生徒と、従者らしい年配の男性。
いかにも貴族的な感情を読ませない微笑。油断できない相手だと、一目で見て取れた。
もしこれがあの女と示し合わせた罠なら……。
辻馬車でお出かけのはずだったのに、なぜか貴族の馬車に乗ってます。ホントにどうしてこうなるんだろう。
これから大急ぎで救い主の設定考えます。泥縄式なのはいつものことなので、なんとかなるでしょう。
こじつけと辻褄合わせのお冨、まだまだ健在です(笑)
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