ミリアちゃんの疑問
いつも誤字報告有難うございます。とっても助かります。
頑張って週末更新続けたいです。
「大きくなくても、競争相手がいっぱい居れば良いんじゃないの。貴族お抱えじゃなくたって、商会はいっぱいあるでしょ」
ミリアが持ち込んだクッキーをつまみながら言った。
それ、購買で売ってるやつだろ。完全な平常運転、緊張感はどこ行った。
「陸路ならばな。荷馬車一台、なんなら徒歩でも行商可能だ」
「せやな。エバンス商会作った祖父様がそやった」
コーカイがウンウンと頷く。どうやら落ち着いたようだ。
ランドール伯爵領の港町マイヅル。海峡、正式名称神の恩寵の運河に面した天然の良港だ。デパ国唯一の海軍基地とデパ国肝入りの造船所が併設された港湾都市として発展中。
元々、デパ国の船とは川に浮かぶもの。国一番の大河でも対岸はしっかり見えていたし、水深を考えれば、船の大きさはある程度決まっていた。
しかし、海峡は。
対岸が全く見えず、潜ったところで底に着く前に息が切れる。錘を付けたロープを垂らしても手ごたえは無い。
水は塩辛く、独特な匂いがする。賢しらな者は潮の香りだと、これは伝説に謳われた海というものだと喧伝した。
神代の造船知識は、聖女ミリア・ランドールの神託によって与えられた。外洋貨客船という名称のそれは、常識外れの大きさだった。
聖女様いわく、『大型タンカーの甲板に豪華客船の上半分を乗っけて運んでるようなもの』らしい。
そんなもの、いくら知識が有ろうとも、造れるのはマイヅルのデパ国国立造船所だけである。
数隻が希望国に貸し出され、試験運用として官製貿易が行われること一年。
桁外れの積載量と速度が実証され、莫大な富が生み出された。
海峡に面するトマーニケ帝国とタムルク王国は、敗戦国であるにも関わらず、各国の羨望の的となったのだった。
「民間に交易路が開放されても、船が無ければ利用できぬ。デパ国から交易船を贖うには、莫大な費用が掛かる。そのような初期投資に堪えうる商会は、我が国においてはエバンス商会のみなのだ」
ラインハルト君が、真剣な顔で言ってくる。
確かにな。国家事業規模だもんな。修学旅行の時、造船所の建物を見たけど、本当にバカでかかったもんな。
「じゃあ、小規模事業者で連合組んで、資金出し合って共同所有すれば良いんじゃない。いっそ株式会社で出資者募るか。それか、海運会社作っちゃえば。船を担保に長期ローン組むってことは出来ないの、住宅ローンみたいに」
ミリアが、何でも無いように神代古語を羅列した。
「何やそれ、神託でっか。ショウキボジギョウシャにカイウンガイシャ、カブシキガイシャって何や」
「長期ローンとは、借金のことだな。負債は褒められたものではない筈だが」
「あー、そっか。こっちには無い仕組みかぁ。経済改革、必要かも。ちょっと待っててね、王様に相談して解説書用意するから。大丈夫、周りを底上げすればエバンス商会の独占問題なんて自然消滅するわ」
ミリア、なに良いこと思い付いたって顔してるの。
「これはこれは。帝国の経済を根底から覆すか。ランドール伯爵令嬢は豪胆だな」
ラインハルト君も面白がってるんじゃありません。ミリアが言うと、冗談じゃ済まないんだよ。マジでシャレにならないんだから。
「それにそうねー、もっとお手頃価格の小型船を造るとかどうかしら。コスパは悪くなるかもだけど、小回りがきけばそれだけニッチな需要も満たせるでしょ。あ、定期便の就航はもう決定しているのかな。コンテナ船はどう。あとね、あとね」
だめだ。ミリアのマシンガントークが始まってしまった。
この後、目立たないように護衛してた近衛騎士のお一人が王宮へ駆け込んだとか、財務大臣が興奮してランドール伯爵家に聖女様との面会を申し込んでくるとか、そんな諸々は僕の与り知らぬことだった。
ミリアちゃんが暴走ぎみです。ラインハルト君、どこまで本気にしてるかな。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。