閑話 貴族学園の教師の面々
ちょっと閑話を挟みます。
テスト問題解くよりも、問題を考える方が効率よく勉強できるとか。確かに理解してないと作れませんよね。
毎年、入学式翌日に行われる実力テストは教師陣にとっても試練の時だ。
向こう一年間のクラス編成の基礎資料であり、生徒にとっては人生を左右する一大事。テストの難易度と分量、共に適切でなければならない。しかも、公平性の担保のため、過去問の使いまわしは許されない。
テスト問題とは、解くより作成する方が何倍も難しいのだ。しかも、終了後には採点が待っている。
「良いよな、生徒は。テストが終わったら休日かぁ」
若手教師の愚痴に突っ込む者は、誰もいない。そんな暇があったら一問でも多く採点しなければ。正確かつ迅速に評価し、週明けと言う期限までにクラス編成を終えるのだ。
週末最終日。
おおよその作業を終えて、ようやく余裕が生まれていた。
不正防止のため持ち出し不可の答案と一緒に、校舎に泊まり込むのも今日で最後。話題になるのは、規格から外れ気味のあれこれだ。
「新入生の出来は七割から八割と言うところですか。まあ、例年通りですな」
全学年に配られる十枚つづりの問題用紙。その内新入生向けの基礎問題は、初めの三枚。二年生なら五枚目までは解いて欲しい。六枚目からの応用問題は、三年生向けだ。
「二年生で三枚目までしか行けなかったのが五名。五枚目まで行ったものの正答率が五割を切った者八名。合わせて十三名が補習対象。これもまぁ例年通りと」
「三年生は選んだ問題に沿って進路決定で良いですな。いやぁ、今年は壊滅的な成績の者はいませんでした。進路変更の説得をしなくてすみそうですよ」
「それで、今年の目玉は、あの二人ですかね」
教師たちが顔を見合わせた。
奨学生ライナー。五枚目半ばまで回答。全問正解。
マーク・ランドール。三年生用の応用問題、それも二問回答。
「特に村への救援隊組織が見事ですな。医師、仮設テント、村の再建が可能かどうか判断する文官の同行。種もみと苗、それに農具が有る。何より、救援隊自体が消費する食料や馬車馬の飼葉まで計算している。さすがは補給の名手ランドール大将の息子さんだ」
「そうそう。大抵は村への救援物資しか準備しませんからな。現実なら、村に到着する前に物資が目減りしてしまう」
「あるあるですな」
「進路は軍人ですか。将来が楽しみでしょう」
「いやいや、この試験栽培の手順も的確ですぞ。ランドール伯爵領はこれから未開地を開拓していく段階ですからな。今から領主としての心構えができているのでは。頼もしいことです」
教師たちは知らない。
マークが補給の重要性を学んだのは、義父オスカー・ランドール大将が情けなく妻にこぼした愚痴からだと。
新規作物の試験栽培に詳しいのは、義母ニーナ・ランドールの実家、ツオーネ男爵領で領民に混じって農作業に勤しんだ経験が有るからだと。
教師たちが生身のマーク・ランドールを知るのは、まだ少し先のことである。
マーク君、学力序列でも一位を狙えそうな勢い。ライナー君もなかなかのモノ。同じクラスになれそうです。
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