プロローグ
お待たせしました。前から書く書く言っていたマーク君の学園編始まります。
デルスパニア王国の王都デルーアの北には、自然保護区に指定されている森が広がっている。
森の入り口までは乗合馬車が利用でき、そこから徒歩で散策すること十分。王立中央高等学園の正門に辿り着く。
貴族学園という通称に見合った優美な建物は、ちょっとした観光名所だ。
今日は入学式。
地方から出て来た新入生や、王都生れでも下町育ちの平民は、一度は足を止めてポカンと見上げている。気にせず黙々と歩いているのは、王都住まいの貴族か上級生だろう。
「すっげぇなあ。これって、お貴族様のお屋敷なんじゃないか。ホントにここ、学校なんか」
僕の隣を並んで歩いてた子が、独り言にしては大きな声で言った。
人通りの中で大声出すなんて迷惑行為になりそうだけど、誰も気にしていない。みんな同じ気持ちなんだろうな。
「なぁなぁ、あんたもそう思うだろ」
「うん、そうだね」
「あ、俺、ライナー。よろしくな。王都は初めてで、知り合いもいなくてさ。友達になってくんない」
屈託ない笑顔って、こういう顔なんだろうな。
「うん、良いよ。こちらこそよろしく。僕はマーク・ランドール」
「へっ。家名持ち。あんた、貴族なのか」
「そうだよ。と言うか、学園の生徒の八割は貴族の子弟だよ」
ライナー君がうーんと顔をしかめた。
貴族に声を掛けて、失敗したと後悔してるかな。
「貴族様ってさ、馬車に乗るもんじゃないの。一台も見当たらないけど」
思わず笑ってしまった。気にするとこ、そこか。
「この森は馬車の乗り入れ禁止なんだよ。怪我人とか、物理的に無理じゃなければ全員徒歩さ。でないと、馬車の大渋滞がおきて身動き取れなくなるからね」
「ええぇ、貴族様が毎日歩くのか」
「そんな事無いさ。学園は全寮制だからね。週末に外出したいなら、森の入り口まで迎えの馬車を寄こしてもらうか、乗合馬車に乗るかだよ。君、奨学生かい」
「うん、そうだぜ。俺の村じゃ初めてなんだ。俺、頑張ったんだ」
誇らしげに胸を張る姿が、好感を持てる。平民だから、貧乏だからと委縮するより、よほど良い。
「そっか。君、村の誇りなんだな。あのな、貴族の中には、奨学生を見下して馬鹿にする者もいる。そんな奴にちょっかい掛けられたら、僕の名前を出して良いから」
ライナー君がきょとんとした。
「へっ、あんたの名前を出すのか」
「あんたじゃなくてマークって呼んでくれ。友達なのに騙したって言われたくないから言っておくよ。僕はランドール伯爵家の長男。身分を笠に着る相手限定だけど、効果絶大だから」
「……伯爵様って。そうは見えねぇけど」
「だろうね。つい半年前までは子爵だったから。それに、色々あって、伯爵家から出る予定だし。まあ、ここで話す事じゃ無いから、後でゆっくり説明するよ。と言うか、させて欲しい。気兼ねなくぶちまけられる相手が欲しかったんだ」
「うっわ。俺、友達選び間違えたかも」
「手遅れって言葉、知ってるかな。それに僕と友達になっておくと便利だよ。たとえば、奨学生なら王都の乗合馬車の年間パスが貰えるって教えられるし」
これが、僕とライナーの出会い。彼と友人になれたことが、僕の学園生活の最大の成果だ。
ライナーがどう思っているかは、別の話だけどね。
前作、彼は男爵家の後継者に成りたいだけだった 伯爵? 公爵? 無理無理無理!の続編にあたる作品です。
なんとかエタらずに完結できて、本当にありがとうございました! 前作をベースに、いろんな話を展開していく予定。目標は十二国記スタイルです(笑)
お星さまとブックマーク、よろしくお願いします。




