第一話その3
校長室を出たあと、わたしたちは迷った末、いつも行く学校の裏の丘へ向かった。
木々に遮られた勾配のある道を五分程歩くと、少し開けた場所に出る。周りが森のようになっているせいか、いつも人気がないので、わたしたちはいつも遠慮なくここで演奏したりしている。
草むらの上にそのまま腰を降ろし、さっき受け取った分厚い資料を膝の上に広げた。
ずっしり重量があって、その分量におののくばかりだけど、読み進めると、まとめ方が丁寧でわかりやすい。
まずはスケジュールが表になっており、その後に、日毎の実習内容が記されている。
初日は隊長室へ集合。これからの訓示を受け、小隊の仕事内容の見学などが予定に組まれている。
本番は二日目かららしく、まずは聖火の受取に同行するらしい。
聖火は街の中心にある、きらびやかな教会本部の管轄で、どこにあるのかは極秘事項だそうで、この資料にも載っていない。
建国時から、一度も消えたことがないという聖火を、記念祭の聖火台まで運ぶ、これがわたしたちの最初のミッションだ。
前回の建国記念祭は十年前。わたしはまだ九つで、村から出たことがなかったので、どんなものなのか全く想像できない。段取りやルートはしっかり頭に入れておかなければ。
わたしはかなり難しい顔をしていたのかもしれない。タムの「大丈夫?」との声に顔を上げたとき、自分の眉間にシワが寄っているのを感じて、慌ててごしごしこすった。
「大丈夫。何したらいいかわかんなくて、緊張してるだけ」
わたしが勢いよく答えると、タムはゆっくりと笑った。
「俺も。王都に来たの、入学の時が初めてだったからな〜」
「同じく! この地図だと、中央広場のど真ん中に聖火台建てるんだね。消したらいけないから緊張するね」
「どこにあるかわからないから、ルートは当日までわからないけど、聖火台の周りの様子だけあとで見に行こうか」
ジャンが資料から視線を上げて呟いたので、タムとわたしは大きく頷いた。
「頑張ろうね!」
わたしが意気込んで前のめりになると、ジャンは余裕の笑みで「おう」と返した。
あと少しで卒業なんて、何だか実感がない。こうやって月日が過ぎていって、何となく卒業を迎えるのは嫌だ。
少しでもわたしがここにいた証を残せるように。
がんばろう、と、もう一度心で拳を握った。