第一話その2
そして放課後。校長室。
大きな窓を背に、ふかふかの黒い背もたれに体を預けた校長。その横でこちらを向いて、分厚い資料を手に持ち立っている、学年主任のラズル先生。
わたしたちはデスクを挟んで二人と対峙していた。
「他でもない。卒業前の実習の一環で、4年生にはいくつか試験を受けてもらう。君たちは普段から仲がいいと聞く。3名一組で来月末日までにこの課題をクリアしてきてほしい」
そう言って、校長はラズル先生に目配せした。ラズル先生は小さく頷いてわたしたちの前まで歩いてきて、持っていた資料を一人一人に配った。
「内容は後でゆっくり読んでほしい。概要だけ説明する」
以下、ラズル先生の話。
わたしたちが暮らすこのカイ王国は、今年で建国400年を迎える。10年に一度、建国記念祭が行われるが、今年は大きな節目の年、大規模な式典が行われる。
式典の警護は第一師団の警護班が行うが、士官学校も協力して警備にあたる。
オレガノ、タイム、レモングラス士官候補生は、第一師団第三部隊長のタイクーン少佐のもと、その指示に従うこと。
期限は、建国記念祭が行われる三月一日〜末日まで。
卒業のための実技試験か……。
無事に卒業できれば、来年の一月一日から、わたしたちは各部署に配属され、士官となる、
一兵卒ではなく士官なのだから、新人だというのにいきなり部下ができるわけだ。
もちろん、最初は先輩士官の補佐として入るのだけど、割とすぐに独り立ちすることも多いと聞く。
実技試験という名の経験だ。今から軍の雰囲気を知り、顔を繋ぎ、いままで学んだ知識をアウトプットしていく。
実技試験は、例年六月頃から行われるため、まさかこんなに早いなんて予想外だったけど。
わたしはジャンとタムの顔をこっそり見上げる。
ジャンはいつも通りのポーカーフェイスのままだったが、ほんのり耳が赤くなっており、興奮しているのがわかる。
タムは目をキラキラさせ、何度も大きく息を吸ったり吐いたりしていた。
正直言うと不安だけど……。
二人と一緒ならきっと大丈夫だ。
ずっしり重い資料をギュッと抱え直し、わたしは自分の心に向けて、しっかりと一つ頷いた。