雨宿りの映画館にしのびよる影
第3回小説家になろうラジオ大賞に応募の作品です。
バケツをひっくり返したような急な大雨。次の仕事の約束までまだ3時間以上ある。どこかで雨宿りをしなければと顔をあげると、そこにはビルの間に挟まれ寂れた映画館があった。とにかく雨をしのぎたい一心で中に入る。
入ってすぐにある券売所で、上映映画と時間を確認するために上を見上げようとすると、中の見えにくいアクリル版の向こうから、
「すぐに始まるけど、観るの?観ないの?」
と声がかかる。
タイトルも見ずに、チケット代を払って、映画館の重たい扉を開く。
始まっている予告の光以外は真っ暗な中、階段を真ん中くらいまで下りて通路脇の座席に着いてふと気づく。客は誰もおらず貸し切り状態であることに。
始まりのシーンは雨の中。
そう、ちょうど今入ってきたときのような…?
写し出されているのは、ビルの間に挟まれた寂れた映画館。
さっき入ってきたばかりの映画館の外観に似ている気がする。そして、駆け込む一人の女性の服装は私にそっくりだ。
「これは何の映画?」
カメラはゆっくりと女性を追って映画館のロビーに入ってくる。そして劇場の扉を開いた瞬間、自分の背後の扉が開き一筋の光が暗い階段を照らした。
画面は劇場をスクリーン側から客席を見た構図に変わっていることに気づく。ちょうど私の座っている席に女性が一人。それ以外に客はいない。客席の後ろの扉は開いたままで、光が差し込んでいるが、何やら動いているものがだんだん大きくなってくる。逆光になってよく見えないが、頭の先が二つに割れた帽子と、顔が横を向くと鼻の先が不自然に丸いことから想像するに道化師のようだ。黒い影のピエロというだけでも気味が悪いのに、動きがまた気味の悪さを増長させている。普通に歩いているのではなく、操り人形のようにくにゃりくにゃりしながら階段を降りてきているのだ。
続きを見るのが怖くて席を立ちたくても、立ち上がれない…
スクリーンに映るピエロは女性の席まであと2、3列というところで、画面が急に、クレヨンで描きなぐるように黒く塗られていく。完全に黒くなると、今度はひっかき絵のようにカラフルな線で空と虹が描かれていき、いつの間にか、映画館の電気はついていた。
慌てて映画館の外に出ると、大雨が嘘のように晴れて虹が出ていた。そして、振り返るとビルの間には映画館が建つ隙間なんてなかった。
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