逃走
「お待ちを、スコール公爵様にお伺いをたてないと。」
執事は俺を引き止めようとするが、
俺は聞く気はなかった。
「侍女、執事達は好きにしろ、安全が確保出来てない以上、少なくとも事態が解決するまでは戻らん。
以後の治療も断らして貰う。」
「そんな!困ります、明日は王妹ユリス様がお越しになるのです。せめて診察を!」
執事は、慌てた様子で訴えかけてくる。
「聞いてないな。
それに襲撃を受けるような場所に王妹様を連れては来れないだろ。」
俺は翌日の予定も伝えていない執事にイラつく・・・
そもそも、何故こいつは無事なんだ?
執事なら来客に対応すべきではないのか?
襲撃されてケガをしているならまだしもこいつは無傷である。
そして、屋敷の警備はどうなっていたんだ?
考えだすとこいつが怪しく見えてきた。
「まあ、いい。このまま此処にいてもいいし、スコール公爵の元に行ってもいい。
勿論、カクタス侯爵の元に行くのもな!」
俺は執事に鎌をかけてみた、すると、あっさり表情が変わる。
侍女も執事の表情に全てを察する。
執事が裏切っていたのだ。
「なるほどね、それが答えか。
ならば俺が気にする必要はなさそうだ。
じゃあな。」
「御待ちを!私達も連れていってくださいませ。」
侍女達は俺にすがってくるが、
「悪いが誰が信じれるかわからんからな、裏切っていないならスコール公爵の元に行き、事実を話せ。
俺が言うのはそれだけだ。」
俺はサリナを連れて屋敷を後にした。
「よろしかったのですか?」
サリナは残された侍女を心配しているようだが、
「ああ、今は誰が裏切っているかわからない。
いくら安全な所に入っても裏切られたら終わりだ。
せめて今夜は信じれる所にいよう。」
装甲車を呼び出す。
「さあ、狭いけど中へ」
サリナを中に入る、
中には後部座席がベンチシートになっている。
「狭くて悪いが、今晩は此処で寝てくれ。」
「はい。」
俺は車を動かし、町の広場に向かう。
夜とはいえ、町の真ん中だ襲撃しにくいだろし、
それに装甲車だ、簡単には開けられる事は無いだろう。
その夜、俺は運転席で寝た。
翌朝、車の周りには人が集まっている。
「ヨシノブさま、周囲に人が。」
「ああ、わかってる。少し動くか。」
俺はゆっくり出発する。
そして、町の郊外に出る。
そして、俺は朝食を用意する。
「あの、私も手伝います。」
サリナが手伝いを申し出るが、レトルトを呼び出して温めるだけだった。
「うう、私料理得意なんですよ。」
恨めしそうな顔で俺を見てくる。
「ごめんよ、でも、簡単なんだよ、他に食材無いしね。
また今度作ってもらえるかな。」
「わかりました、絶対ですよ!」
俺はサリナと約束を交わして、朝食とする。
メニューは炊き込みご飯とハンバーグ、ワカメスープだったが、
「美味しいです。このご飯というものの味付けはいったいなんなのでしょう?食べたことがない味です。」
サリナは醤油を知らないようであった。
朝食を食べ終わったあと、アレクが兵士を連れてやってきた。
「ヨシノブ殿、此処におられるのか?」
「アレク様、あなたが用意した執事が裏切りました。
一つお聞きしたい、貴方の指示ですか?」
「我が家名にかけて、そんなことは無いと誓おう。
だが、私が用意したものが裏切ってしまった事も事実。
どうか謝罪を受け入れてもらいたい。」
俺は装甲車から出る。
「アレク様、貴方を信じましょう。しかし、カクタス侯爵ともめる事になりました。
王都から離れようと思うのですが。」
「ま、待ってくれ、せめてユリス様を診察してもらえないだろうか?」
アレクは困った表情を浮かべている。
「・・・わかりました。ただ、安全を考えてアレク様の屋敷にての診察でよろしいか?」
「勿論だ、完全警護の上で診察してもらおう。」
俺は装甲車に乗ったままスコール公爵邸に向かう。
そして、屋敷の庭に治療所を展開、
王妹ユリスを待つことになる。