タケフミ追放
フィリアとの話が終わり、ミキと甲板に行くと今度はマイとタケフミが言い争いをしていた。
兄妹喧嘩かと思い少し離れようとしたがマイがこちらに気付いて駆け寄ってくる。
「ヨシノブさん、聞いてください!」
マイは携帯を見せてくる。
「これは・・・」
画面が割れている携帯を見せてくる。
「お兄ちゃんが壁に叩きつけて壊したんです!」
「だから、謝っただろ!いつまでも怒るなよ!」
タケフミの様子を見る限り、謝ったようには見えなかった。
「タケフミくん、これは君が悪いよ。」
「何でだよ!そもそも他人のお前に言われる筋合いはない!」
「確かに他人の俺がいうことでは無いかも知れないが・・・」
「じゃあ、黙ってろよ!これは俺とマイの問題だ!」
タケフミはヨシノブの介入を拒む、この頃にはショウやカエデ、サリナも集まって来ていた。
「艦内で起こった事に対しては俺は言わせて貰うよ。
兄妹喧嘩をするなとは言わない、でも、周囲の迷惑を考えろ、特に携帯は日本にいる家族と連絡する大事なツールだろ?
借りておいて、それを壊すなんて何を考えているんだ!」
「うるさい!お前に説教される筋合いはない!」
「なら、代表としていうよ、もう少し協調性を持て、俺が気にくわないのかも知れないが、最低限の礼節は持ってくれ。」
「黙れよ!なんで俺がお前の言うことを聞く必要があるんだよ!
代表?何だよそれ、それに何の意味があるんだ?俺が選んだ訳じゃないだろ?」
タケフミは馬鹿にしたようにこちらに食ってかかる。
「そうかい?あくまでも命令を聞く気はないと?」
「俺はお前の部下でも何でもないからな!
それとも何か、年が下なら何でも言うことを聞かないといけないのか?
今時流行らないだろ?」
この頃には俺の声が冷たくなっているのに周囲は気付いていた。
「タケフミ!謝れ!今ならまだ間に合うから!」
ショウは慌ててタケフミを止めようとするが、
「ショウ、お前も言ってやれよ!こんなおっさんに従う必要なんて無い、俺達は自由なんだからな!」
「何を言っているんだよ!俺達がどれだけヨシノブさんに世話になっているのかわからないのか?」
「俺は世話になんてなってない!こいつが勝手に世話を焼いているだけだろ?」
「そうかい、なら世話を焼くのは止めさせて貰うよ。」
俺の言葉に周りは固まる。
今まで優しく接していたが、どうやらタケフミには逆効果だったのかも知れない、
助けてもらって当たり前のような雰囲気が出ており、感謝の欠片もなかった。
「ま、待ってください!今説得しますから!ほら、タケフミ、謝れよ!」
「お兄ちゃん、謝ってよ!このままじゃ不味いよ、ねぇ、早く!」
ショウは顔を青ざめながらタケフミに頭を下げさせようとする。
マイも声をあららげて、謝罪を求めるが・・・
「何するんだよ!俺は謝らねぇからな!お前こそ言ってやれよ!
そうだ、多数決をとろうぜ、俺とヨシノブどちらがこの船を降りるか。」
タケフミは多数決なら仲間の多い自分が勝てて、この船を手に入れる事が出来ると安易に考えていた。
「そんな事しても意味はないけどな。」
俺は呆れたように言う、俺を追放した所でこの船は手に入らないのだが・・・
「なんだよ、ビビっているのか?まあ、お前は人望が無さそうだからな!
じゃあ、ヨシノブを追放してもいい奴は手を上げろ!」
タケフミは勢いのまま、みんなに採択を求める。
タケフミだけ威勢良く手を上げたが、当然だが誰も手を上げない。
「な、なんでだよ!あっそうか手を上げづらいのか!
じゃ、じゃあ、質問を変える、ヨシノブが艦長でいい奴は手を上げろ。」
今度はタケフミ以外全員が手を上げた。
「な、なんでだよ!みんな俺の関係者じゃないか!ショウお前なんて親友だろ!」
ショウは目をそらしながら・・・
「おまえ、なんでそんな真似をするんだよ、俺は止めていただろ?
お前こそ親友と言うなら何で俺の話を聞かないんだ・・・」
ショウは気付いていた、タケフミが勢いでやったのは追放の採択だ、
こんな行為をしたら当然船にはいられないだろう。
「じゃあ、俺からも決を取るか・・・
いや止めておこう、俺からの命令にしておくよ、タケフミくん、君には本日付で船を降りてもらう。
一応、港にテントは用意して上げよう。
其処にいたら俺達が救助活動をしている間は飯が食べれるだろう。
その間に生きていく術を身につける事だな。」
俺はみんなに採択を求める事を止めた、後で皆のシコリになりかねないからだ。
あくまでも恨むなら俺だけにするつもりだ。
「な、何の権限があって、そんな事を!」
「だから、代表として言わせてもらう、それにこの船の持ち主で、救助活動の指揮官だ。
これ以上とどまる気なら兵士に連れていかせるが?」
「くっ!くそったれ!誰がお前の世話になるか!行くぞマイ!」
タケフミは妹のマイは自分についてくるものと考えていた。
「・・・やだよ、何でお兄ちゃんの勝手に付き合わないといけないの?
私もショウくんも止めていたよね!」
「うるさい!妹なんだから兄に従えよ!」
「お兄ちゃん、この世界で何も考えないお兄ちゃんに付いていって、どうなるの?」
「えっ?」
「ヨシノブさんの援助が無ければ私達ご飯も食べれなければ、寝るところもない、ましてや、お父さん、お母さんと話す事も出来ないのよ。」
「そ、それは・・・俺が何とかするさ!」
「出来ない事を言わないで!」
「・・・」
「私は最初から散々止めたよ、ショウくんも止めてたよね。
私達の言葉を無視して勝手にした結果、右手を失って・・・今度は何を失うの?」
「そ、それは・・・」
坦々と語るマイに、タケフミの頭は冷えて来ていた。
さっきまであった怒りの感情がおさまり段々と恐怖が出てくる。
俺は一人で何が出来る?
この国に来る道中、使節団の人達が護衛をしてくれているのを見ていた。
魔物に襲われ、盗賊に襲われ、俺は怖くて馬車の中にいたが、護衛の一人は亡くなっていた。
そんな世界なのだ。
そして、お金だって持っていない。
そもそもこの世界の物価すら知らない。
そんなので生きていけるのか?
俺の特技は・・・
出来る事を考えるが何も思い浮かばない。
サッカーが得意とはいえるが、この世界で役に立ちそうにない。
それに利き手の右腕が無いんだ、肉体労働も厳しいだろう・・・
じゃあ、どうすれば・・・
「あ、あの、俺、その此処に・・・」
タケフミは怖くなって船に置いて貰おうと頼もうとするが・・・
「悪いけど、君を乗せる気にはならない、一度テントで暮らしてみるといい、どうやら君には言葉が通じない上に優しくすると付け上がるみたいだからな。」
ヨシノブの答えは冷たいものだった・・・