森脇ミキと前原コウキ
次に見つかったのは子は娼館にいた・・・
無事とは言えない状況ではあるが、
「俺は前田ヨシノブ、日本人だ、君を保護しに来た。」
「なんでもっと早く来てくれないの!」
彼女は泣きながら俺に罵声をかけてくる。
ひとしきり、叫んだあと、落ち着いたのか身なりをただして・・・
「すみません、取り乱してしまいました、私は森脇ミキと言います。
身請けしていただけたのですよね?」
俺は兵士に確認するが俺が身請け先で間違いなかった。
「そういうことだね。」
「でしたら、末永く可愛がっていただけるよう努めて参ります。」
ミキは深々と頭を下げる。
どうやら、短いながらも娼館でマナーを叩き込まれたようだった。
「そんなつもりで身請けした訳じゃないから、君はもう娼婦じゃないんだ。」
「でも、だって、こうしないとまたあそこに返されるのでしょう!
そんなの嫌!もう知らない人に襲われるのなんて嫌なの!」
「大丈夫、大丈夫だから!君はもう自由なんだ。」
俺は取り乱すミキを抱き締め、落ち着かせる。
「すみません・・・」
「いや、大丈夫だよ、君の他に那須マイ、牧野カエデも保護しているから、後で会うといいよ。」
「・・・二人に会いたくないです。」
「どうしてだい?君達友達なんだろ?」
「だって、私は汚れてしまったから・・・」
「そんな事はないよ、それに君の友達は君の境遇で嫌うような子なのかい?」
「そんなことない!マイもカエデも私の親友よ!」
「ほら、それが答えだよ、君の苦しみは俺にはわかってあげられない。
でも、君の友達なら分かち合ってくれるよ。
今の君に必要なのは支えてくれる友達だよ。」
「・・・いいのかな?私がみんなに支えてもらって。」
「友達は支え合うものだ、今は支えてもらって、次の機会に返したらいい。
今は借りておいたらいいんだ。」
「・・・うん。会いたい、みんなに会いたいです。」
やっと、ミキに笑顔が戻る。
少し不安定になっている彼女からは状況を聞くことはせず、そのまま、マイ達に引き合わせた。
「「ミキ!」」
「マイ、カエデ!」
三人は抱き合い無事を喜ぶのであった。
再会を喜び涙を流す三人を置いて俺は艦長室に向かう。
「サリナさん、ルクスさんから使者が来ていたって?」
「ええ、手紙を置いて帰りましたが。」
「なんだろう?」
俺は手紙を開けるとそこには一人の日本人と、思われる男の子の死亡報告があった。
発見されたのは奴隷として男の子を購入した、錬金術師の家からだった。
彼は人体実験の素材として、奴隷になっていた男の子を購入、
生きたまま心臓を取り出し、その心臓を霊的素材にするつもりのようだった。
勿論、これは違法な実験であり、衛兵が錬金術師を捕縛することとなるが、心臓を取り出された者が生き返る事はない。
俺は急ぎルクスに連絡を取り、彼の遺体を回収した。
彼の持ち物の中に生徒手帳があり、前原コウキと断定出来た。
「タケフミくん、ショウくん、少しいいかな?」
俺の暗い声に二人が緊張する。
「なんでしょう?」
「君の友達の前原コウキくんの死亡が確認された。」
「えっ!」
「一応、遺体は引き取ってきたが酷い状態だ、見てみるかい?」
二人はゴクリと唾をのむ、
「はい、最後の別れをさせてください。」
ショウは勇気を持って見ることを決断する。
「お、俺はそんなの信じない!」
タケフミはその場から逃げ出してしまった。
「タケフミ!」
ショウは引き止めようとするが、俺はショウを止める。
「無理に見ることは無い、ショウくんはいいのかい?友達の無惨な姿を見ることになるよ。」
「構いません、知り合いのいない地で一人で逝くなんて寂し過ぎます。
せめて見送るぐらいは親友としてやらなくてはいけないと思います。」
「そうか、ならついて来て。」
俺はショウを連れて遺体を安置してある場所に行く。
「ここだよ。」
ショウは覚悟を決めて中に入る。
「コウキ!」
中にはコウキが横たわっていた。
体は冷たく、顔色も土気色だったが確かにコウキであった。
その表情は苦悶の状態で固まっており、死ぬ前に苦しんだ事がよくわかった。
「コウキ、こんな所で死ぬなんて・・・
ああ、さぞ苦しかっただろう、ごめん、ごめんよ、俺には何も出来なかったよ。
許して、許してくれ・・・」
14歳の彼には重い別れだろう。
ショウはコウキの手を握り、何時間も泣き続けていた。
「ヨシノブさん、勝手なお願いなのですが、彼の遺体を安置することは出来ませんか?」
「それは無理だ、彼の身体が腐ってしまうからね、でも、遺骨にして置いて置くことは出来るよ。」
「お願いします。彼の遺骨を置かせてください。もし、日本に帰れる時があれば一緒に帰ってやりたいんです。」
ショウは深々と頭を下げる。
「わかった、船の一室に彼の部屋を用意しよう。」
「ありがとうございます。」
ショウはヨシノブに深く感謝をする。
同じ日本人とはいえ、見ず知らずの遺骨を置くなんていい気分ではない筈だ、
ましてや、他の友人達も世話になりっぱなしの状態なのに。
俺は兵士に協力をお願いして、郊外にコウキを荼毘に付す準備をして貰った。
ショウはもちろんの事、面識はあまりないが同じ日本人として、マイ、カエデ、ミキも来ていた。
だが、コウキの死を受け入れられない、タケフミは来なかった・・・
「ショウくん、君の手で火をつけるかい?」
「・・・はい。」
ショウは俺の手から松明をとる。
「コウキ、安らかに眠れよ・・・」
ショウは火をつけ、涙を流しながら手を合わせていた。
女の子達も一歩間違えれば自分が死んでいたのかも知れないと改めて感じる。
そして、この世界の恐ろしさを身に染みていたのだった。