マクドーナル伯爵家、祝宴
伯爵家の宴は豪華なものだった。
勿論、俺達はオマケだったのでのんびり食事をとる。
「サリナさんは挨拶をしなくていいのか?」
「私は他国の貴族ですから、後で行います。
でも、ディーン殿下と知り合いになってくるなんて驚きましたよ。」
「成り行きでね、ラードに帰って来れなくて困っているようだったから引き受けたんだけど。」
「殿下が優しい人だから良かったですけど、気をつけないと貴族社会は恐ろしいですよ。」
「次は気を付けるよ。」
俺はサリナに注意されつつ食事を楽しむ。
「此方にいらしたのですか。
私ともお話してください。」
ルイスがやって来た。
そして、たわいのない話を三人でしている所に一人の男が現れる。
「ルイス王女、私はホルンという者にございます。どうでしょう夜風にあたりながら二人でお話しませんか?」
甘い表情を浮かべ、ルイスを誘おうとするが・・・
「すいません、よく知らない相手と二人きりになるのは宜しくないのでお断り致します。」
ルイスは断り、俺の方を向き話を再開しようとするが、
「私と話すより、その素性もわからぬ男と話す方が大事だと?」
男は断られた事に腹がたっているのか、怒りを堪えた表情で此方を睨んで来ていた。
「失礼ではありませんか?私は貴方の事を知りませんし、この方は私の恩人です。
どちらを大事にするかは明白でしょう。」
ルイスは正論で答えるが怒りを出している男には逆効果だ。
「いいから来いって言っているんだよ、直ぐに気持ちよくしてやるから!」
ルイスの手を引っ張ろうとしたので俺は男を組伏せる。
このスキルに目覚めてから体術が多少使えるようになっていた。
多分自衛隊の格闘術だと思うのだが。
「貴様、このホルンにこのような真似をしてただで済むと思うなよ!」
「お前こそ、可愛いレディに対しての礼儀がなっていないな。」
「可愛いなんてそんな・・・」
ルイスはまんざらでもない表情を浮かべモジモジしている。
この騒動に真っ先に現れたのは伯爵令嬢のアンナであった。
「何をしているのですか!その手を離しなさい!」
アンナは俺を突飛ばし、ホルンを助ける。
俺は女性に暴力を振るう事を躊躇い、突飛ばしに抗う事なくホルンを解放した。
「すまないアンナ、油断したよ。」
「なんて、無礼な者ね、これだから平民は嫌いなのよ。」
二人の顔を見て思い出した、この世界に来て最初に見かけた奴等だ。
俺が倒した山賊の手柄を横取りした冒険者だ。
「ああ、半年前に山賊に襲われていた貴族と手柄を横取りした冒険者か。」
「なっ!横取りとは人聞きの悪いことを言うな!」
ホルンは慌て出す、
今この場に騎士としての身分でいられるのもアンナを助けた手柄からだった。
そして、その手柄も勝手に倒れていく山賊を見ていただけなのだから・・・
「だってそうだろ?俺が崖の上から倒した山賊をお前が倒した事にしたんだろ?」
「なっ!そんな筈があるか!」
「じゃあ、剣で斬らずにどうやって倒したんだ?」
周囲がザワツキだす。
事情を知る周りの騎士からも倒し方に不審があった。
ホルンに魔法は使えない、ただの剣士だ、そして、持っている武器も普通のロングソード、だが倒した山賊には小さい穴が空いているだけだったのだ。
アンナが盲目的にホルンに惚れており、追及出来なかったが不審な点が多いのも事実であった。
その上、ホルンの態度が悪く、先輩騎士や上司にもアンナの思い人の立場を利用し、傲慢な態度をとっていた。
その為、ホルンを庇おうとするものはいなかった。