ルーカス商会
「サリナのこども・・・」
ルーカスは妄想の世界にいた。
最愛の孫の子供、曾孫、今まで現実味が無かったが、サリナが男と此処に来た以上この数年先にはあり得る光景だ。
そして、逃げて来た以上、この町に住んでくれるのは夢ではない。
ワシの老後は曾孫を可愛がり育てていく・・・
「ヨシノブくん、是非、我が家に滞在してくれたまえ。」
ルーカスはヨシノブを受け入れた。
「ルーカスさん?」
「なに、サリナが連れてきた者に文句があるわけがないではないか。」
「おじいさま、わかってくれるのですか?」
「勿論だとも、そうだ、マーナの言うとおり家を建てねばな。直ぐに手配しよう。」
ルーカスは屋敷内に家を建てる事を計画する。
曾孫のいる世界を実現する気であった。
それから俺達はルーカス邸に世話になっている。
庭には俺達の住む家の建築も始まっていた。
そんなある日、俺とサリナはルーカスの部屋で資料の整理をしていた所に商会の番頭が走り込んで来た。
「ルーカス様、一大事です!」
「どうしたのだ?」
「嵐で船が沈みました!」
「なんだと!乗組員達は無事か?」
「いえ・・・多くが帰らぬ人となったそうです。」
「・・・冥福を祈ろう、遺族には慰問金を贈るように手配してくれ。」
「わかりました。ただ、問題がありまして、船に積んでいた積み荷は国王陛下が開かれる宴に使う為の香辛料でして、それが足りなくなるかと。」
「ぬっ、それはまずい、周辺の商会に香辛料はないのか?」
「それが他の船団も沈んだ模様で、現在香辛料が品薄になっております。」
「ならばもう一度船団を出すしかあるまい。」
「それが航路が荒れていまして、いつおさまるか・・・」
ルーカスと番頭は言葉なく悩み始める。
「ルーカスさん、俺が取って来ますよ。
どれぐらいの距離ですか?」
俺が志願する。
「ヨシノブくん、嵐の海をなめてはいけない、それに往復に1ヶ月はかかるのだ、簡単に行ける場所ではないのだよ。」
この世界の海運は地球で言う大航海時代ぐらいだった。
帆船しかなく、速度でいえば最大時速30キロ、俺が呼び出せる飛空艇は速度が400キロは出るから10倍以上の差がある、
道中天候が荒れていても回避すればいいだろう。
「任せてください。ただ、俺に品物を見定める力はないので誰かに同行して貰いたいのですが?」
「私が行きます!」
俺の言葉に番頭マスが答える。
「マスさん、頼めますか?」
「はい、この苦難に黙って見てる訳にはいきません。
ルーカス様、宜しいですか?」
「わかった、しかし、危ないと思ったら直ぐに引き返すのだ。
ワシは近隣の国もあたり、香辛料が無いか探してみる。」
「ヨシノブさん、私も行きますよ。」
「サリナさんはルーカスさんの傍にいてあげて、ああ見えてかなり心労がかかっている筈だから、俺は4~5日で戻って来るから。」
「・・・わかりました、でも、絶対帰って来てくださいね。」
「勿論だ、待っててくれよ。」
こうして俺は旅に出るのであった。