カクタス侯爵
ヨシノブが各地を巡っている間に、カクタス侯爵は謀略を張り巡らしていた。
最初はマインズ王国にいる知人からマルコス商会を紹介してもらい、直接足を運ぶ。
「お前がマルコスか?ローラン王国で商人をしていたと聞くが?」
「は、はい、カクタス侯爵様にはご機嫌麗しく・・・
おっしゃられる通り、以前は王都ローラにて店を構えておりましたが、今は此処で商会を経営しております。」
「なるほど、お主に頼みがある、この商品をワシに卸してくれぬか?
なに悪いようにはせん、お主も祖国に帰りたいであろう?」
カクタスは最近マルコスが酒場で愚痴を溢している事を報告で聞いていた。
それは現在稼げていることを棚に上げ、
忙しさに対する不満、商品の入荷に対する不満、王都から無理矢理連れ出された事の不満を新たに出来た商人仲間と話していた。
「はい、私はローラン王国の民ですから。」
「うむ、ならば、ワシに商品を卸してくれるな?
協力すれば王都ローラに大店を持たせてやる。」
「・・・ですが、私は雇われの身ですし。」
「なに、上手くやれば良いだけではないか、バレたらワシの元に逃げて来れば良い。
奴隷のように暮らす必要など無いのだ。
ワシはお前の才覚に期待しておるのだ。」
マルコスは今の暮らしから解放される事に魅力を感じていた。
また、侯爵という雲の上のような人から直接会い、期待されていることに喜びを感じていた。
「カクタス侯爵様・・・わかりました。可能な限りお手伝い致します。」
「うむ、ならば・・・」
マルコスは商品を原価、ほぼ無料に近い値段で横流しをする。
帳簿は改竄されていた為、ヨシノブがすぐに発見することは無かった。
カクタス侯爵は手に入れた日本産の酒や菓子、そして、ドワーフ製の武具を使い、ローラン王国のみならず、マルドラド王国にも自身に友好的な者を作り上げていく。
そして、新たに出来た者を使い、
小さなヨシノブの基地を落とす事を黙認する事をマルドラド貴族達に認めさせていた、
代わりにラード侵攻を阻止したという功績をマルドラド貴族に約束する。
その為、戦争の目標はラードとなっているがヨシノブの基地を落としたらマルドラド貴族とにらみ合い、小競り合いをしたのち、撤退することが決まっている。
贈り物が功を奏し、マルドラド貴族達は自分に関係のない、新参者のヨシノブをあっさり見捨てる。
元々ヨシノブの土地は既に見捨てられた土地だったのだ、捨てることに抵抗はほとんどなかった。
そのうえ、マルドラド貴族の中には王家がヨシノブに過大な恩恵を与えていることを気にくわない者も多数いた。
ヨシノブ自身、マルドラド王国にあまり寄与していないせいもあり、ラードに侵攻しない裏約束でマルドラド貴族はカクタスの話に乗っていた。
なお、その貴族達はヨシノブの基地が落ちたあと、ラードを防衛したという功績に眼がくらみ、多くの貴族がラードに集まっている。
それを好機と見たカクタスはマルドラド貴族の中でも裕福な者に話を持ちかける。
「どうですか?貴方が更なる功績を得る機会ですぞ。」
「それはどのような?」
「我が国に食糧援助して頂ければ、歴史に名が残る功績を差し上げましょう。」
「なに?」
「貴方が我が国の将を打ち破り、その結果停戦がなされる。如何か?」
「それは!魅力的な話ですな。詳しくお聞かせ願いたい。」
基地周辺では欲望渦巻く不穏な空気が漂っていた・・・




