第4話
「こちらです」
そういって案内された部屋は、一つのテーブルと、それを挟むように向かい合わせに置かれた木で出来た長椅子のみの簡素な部屋だった。
「どうぞ座ってお待ち下さい」
そう勧められたので遠慮なく座る事にする。ここに案内してくれた門番も部屋の中に入って来て、扉を閉めた。そのまま扉の前で待つようだ。程なくコンコンとノックされ、部屋の中から門番がドアを開けると、そこには金髪を短く切り揃え、髭を生やした、体格の良い男性が立っていた。
「……へぇ~、嬢ちゃんがねぇ~」
俺と目があった男性は、こちらをまじまじと見ながらそう言った。
(嬢ちゃんって、ここには俺しか………って俺今女なんだった……)
俺は嬢ちゃんと言われ、自分が女になっている事を今更ながらに思い出していた。
(そういえば女になってたんだよな……。ゲームと違い客観的に見れないせいか、自分が女になってるって意識しないと忘れてしまうな。ネカマプレイしてる時みたいに、常に意識しておかないと何かやらかしてしまいそうな気がする……。よし、お……私は女~……女~………)
私がちょっとした決意をしてるうちに、男性は一緒に来ていたもう一人と部屋に入り、私の向かいの椅子に座った。
「さて、ここに来て貰った事の説明の前にまずは自己紹介をしておこう。俺の名前はランダ・シグルフ。今現在、このニック村の守備隊の隊長だ、よろしくな」
そう言って右手を出してきた。私はその手をとりつつ、自分も自己紹介をする。
「…私は、セイ・ミルウェイといいます、よろしくお願いします」
この姿で自分の事を"私"と声を出して呼ぶのは何だか気恥ずかしく、少し詰まってしまう。
「私の名はファルマー・マウィス。彼と同じ守備隊で副隊長をしています」
「よろしくお願いします」
そう言って、もう一人とも握手する。こちらはランダと違い長い髪を後ろで束ね、細身の美丈夫といった感じである。
「……」
(……え?)
ファルマーがこっちを見てボソッと何か呟いた。聞き間違いでないなら"もえ"と聞こえた気がする……。
(この世界に萌え文化とかあるはず無いし、きっと気のせいだよな………)
「それでここに来て貰った理由なんだが、その前に確認させて欲しい」
そうランダに言われ、視線をファルマーから移す。
「なんでしょうか?」
「こいつ、シャンスに言った内容についてだ」
そう言ってランダは入り口の所で立っていた門番を親指で指した。
「その一、嬢ちゃんは自室で寝ていたのに、目が覚めたら外にいた。その二、自分がいた場所に覚えが無く、ここが何処か分からない。その三、着ている服と持っている剣以外何も手持ちは無く、識別票も持っていない。以上で間違ってないか?」
「はい、そうです」
ランダは一つづつ指を立てながら、先程門番…シャンスに説明した事を聞いてきた。私が頷くと、隣のファルマーの方をチラッと見て、それ対しファルマーは頷いて応える。
「まどろっこしいのは嫌いなんでな、単刀直入に聞こう。嬢ちゃん、もしかして異世界から来た人間じゃないか?」
「…………は?」
予想外の言葉に間抜けな声が出てしまった。
「どう……して……」
驚きのあまり上手く言葉が出てこない。
「どうして分かったのか、か?簡単な事だ。昔から何人も、嬢ちゃんのような異世界の人間が来てるからさ」
「えっ!?」
と、何でもない事のように答えを聞かされ、俺は口を半分程開けた状態で固まってしまった。
「過去にこの世界に来たと言われている異世界の方がこの世界に来た時の事が伝わっていましてね。今あなたから聞いた、あなたに起こった事と、その伝わっている内容がほぼ同じだったのですよ」
そう言ってファルマーは先ほど私が言った事を一つ一つ指を折りながら確認する。
「それとこの識別票を持っていないってのも、お嬢ちゃんをが異世界人だと判断する事が出来た理由の一つではあるな」
ランダは自分の首に掛かってるタグを取り出す。確か村に出入りするときに全員が見せてた物のはずだが…
「それは?」
「これは識別票って言ってな、この国の住人なら誰でも持ってるもんでな。ただ他国では全ての住人が持っている訳じゃなくてな、持っていない者には国境を越える時に一時的に貸し出されるんだ。つまりこれを持っていないのは、よからぬ事を考えて密入国した奴や、お嬢ちゃんみたいなこの国に突然現れた異世界人って事になる。悪い事考えてる奴がわざわざ言う訳ないしな。しかも異世界人ならこれが何か分からないってのも判断基準の一つになるな」
(なるほど、つまり個人証明証みたいなものか)
と心の中で納得していると
「しかし異世界の人間なんて、俺達からしたら物語の中でしか知らないからな。まさか生きている内に見る事が出来るとは思って無かったぜ!」
ランダはガハハと見た目通り、豪快に楽しそうに笑う。私はといえば、あっさりと異世界の人間だとばれたおかげで、どうしようと悩んでたのが嘘みたいに肩の力が抜けた。