第3話
「ん~~~やっと抜けたぁ~」
俺は両手を頭上に突き上げ、ぐーと伸びをした。戦闘は最初の一度だけで、それ以降襲われる事は無かった。ただ、また襲われるかも?という思いからマップを頻繁に見たり、周囲に気にしたりしていたので、妙に気疲れしていた。
(森を抜けたら見えるはずなんだが……まさかあれか?)
マップに表示されてる村の場所は、自分の視線の先にある場所で間違い無いのであるが、そこには自分が想像していた村とは違い、何やら高い壁の様な物で囲まれていた。
(まあ、近くに魔物がいる森があるんだし、大群に襲われても持ち堪えられるように、とかの理由なんだろうな)
と自己結論に至り村へと向かって歩き出す。
村の周囲は畑になっているようで、あちこちに作業をしていると思われる人がちらほら見かけた。その人達何人かがこっちを向き、何故か驚いているようだったが、目があったので軽く会釈しておいた。しかし、この世界では、挨拶に会釈するといった作法は無く、もしかして挨拶とは違う意味があったのでは?と思い、それ以降会釈するのを止めておいた。
驚かれた理由と、作法云々については村についてから知る事になった。
村は、壁だけでなく周りをぐるっと堀で囲み、出入り口の門のところにだけ道があるようになっていた。
門には門番とおぼしき鎧を着けた人が数人立っていて、村から出る人は自分から向かって左側から、入る人は右側から順番に出入りしていた。
村に入る為に、右側に並ぼうとした所、出入りする人どちらも、門番に首にかけていたタグの様な物を見せ、門番はそれを何やら道具の様な物をかざし、それで何か確認出来たのか詰所?の中にいる人が外にいる門番に話しかけ、通行の許可を貰ったらタグをしまい、その場を後にする、という一連の流れが目に付いた。
誰一人例外無く、タグを見せているという事は、あれが通行証の一種なのであろう。
(さて、どうしよう…)
あんな物を持っていない事は、最初色々調べた時に確認済み。他の所へ向かっても、どうせ同じ様に門番がいる可能性の方が高い気がする。
(正直に持ってない事を伝えるしかないか。ま、成るように成るだろう)
悩んだ所で無い物が突然出てくる事も無いので、とりあえず手が空いてそうな門番に声をかける事にした。
「あの、すいません。少し訪ねたい事があるのですが…」
「はい?どうし…っ!?」
門番が、声をかけた俺の方へ向き直り、俺を視界に収めたとたん、目を見開き言葉を詰まらせる。
(ん?何か固まってる……)
この時俺は、自分が女性になっている事などすっかり忘れていた。それと同時に気付いていなかった。自分が作ったキャラはこの世界において、上から数えた方が早い位に、見目麗しい美少女であるという事を。
「あの、どうかしましたか?」
「あっ、い、いえ、何でもありません。それよりどうしましたか?」
「えっとですね、村に出入りする時に見せてるアレを持ってないのですが、村に入れますか?」
「アレって……もしかして識別票を無くされたのですか?」
「無くしたというか……何というか……」
この時俺は誤魔化すべきか正直に言うべきか悩んだ。しかし何となくここは正直に言った方がいい気がして、自分の置かれた状況を伝える事にした。
「実は………」
…………
……………………
「……ここで少しお待ち頂けますか?」
そう言って門番は早足に立ち去り、詰所へと入って行った。最初は笑顔で聞いていたが、話を聞いている内に声をかけた時とは違う驚きの顔になっていた。話した内容は、
自分の部屋で寝ていたのに、目が覚めるとこの近くを流れている川の近くにいて
ここが何処なのか分からない
自分の持ち物は今着ている服と腰から下げている剣のみでお金も全くない
という事だけだ。勿論、異世界から来た、とは言ってない。言った所で信じてもらえないと思ったからだ。当然、メニュー画面やマップなどといった事も言ってない。
門番が詰所に入って2、3分といった所だろうか?先程の門番が同じ様に早足でこちらに戻ってきた。
「お待たせしました。あなたの話を直接聞きたいと仰られてる方がいますので、着いてきて頂けますか?」
と言ってきた。他に選択肢も無いので黙って頷いておく。それを確認した彼は、「どうぞ、こちらです」と言い、先に立って歩き始めたので、彼の後についていった。