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ポロポロ涙とクルクル世界  作者: えべさ叡智
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05


足音がする


誰かが黙って院内入ってきたみたいだ

夜になり静寂になった院内に響ている

なんだろう?急患だろうか?


ペタ・・・ペタ・・・

・・・ペタ・・ペタ


子どもだろうか・・・

妙に軽い足音だ

急患ではないかもしれない

急いでいる感じも、私を探している感じも無い


足音は私のいる診察室の前で止まった


「どうかなさいましたか?」


・・・・・

返事が無い


立ち上がろうとした時だった


ペタペタペタペタ・・・


どうやら、今歩いて来たへ道を走り戻ってしまった

どういう訳だろう

私に用がある訳ではなかったのだろうか


自分のいた診察室の扉は閉まっていたために

姿を見ることができなかったが

まだ、院内にいるだろう

病院から出て行った様子はなかった


迷子とかかもしれないと思ったが

夜中に迷子とは不自然である


不思議というより不気味さが目立つが

確認しないわけにもいくまい

ただ子どもの足音だったから物取りと言う訳でもあるまいと少し楽観的に考えていたが

扉を開けて驚いた


やはり子どもの足跡だ

いや、それはいいのだ

子どもだと思っていたから


しかし、これはどういう訳だ

足跡は汚れた素足でつけたものだ

いや、確かに院内に響いていた音は裸足のような足音だった

だったのだが、だ


汚れている足跡

・・・つまり?

裸足で病院まで歩いて来たのか?

一人で?街灯以外の灯火が消えてしまったこんな時間に?

これはおかしい・・・

体は強張り

少し嫌な汗が噴き出てきた


医者の職業病みたいなもので、最悪の事態を想定してしまう

何か良くない事が起きたに違いない

瞬時に何通りもの最悪の事態とやらが脳裏に浮かんでしまう


唾を飲み込んだ後

子どもが走っていったであろう方向に目を凝らしてみる


何かが待合室の机の下で動いた

暗闇で輪郭はよく見えないが

闇に浮かび上がる小さな目はジッとこちらを見ている


「どうしたんだい?君ひとりかい?」


「・・・・・・」


返事は返ってこない

どうやら私に警戒をしているようだ

どうしたものか

これ以上近づけば怯えさしてしまうのは

ヒシヒシと感じる


こういう時に女性のユアンがこの場にいたのなら助かるのだが

どうも、私は強面ではないのだが身長が高く、立つと威圧感があるらしい

なぜか子どもの相手が苦手なユアンの方が

初見の子どもには私が相手するよりは安心するらしい

こんな優男をつかまえて本当に心外である


なので、子どもには出来るだけ目線を合わせるようにしているし

いつもニコニコするように心掛けている


「何かあったのかい?」


「・・・・・・」


ああ・・・いくら優しくし接しようとしても無駄みたいだ

片膝をつき

子どもの目線まで頭を低くしてみてもダメだ

努力が報われないとはこのことである

ますます身を丸めて、警戒態勢を強くしている


本当にどうしたものか

誰か助けてくれ!

と、心の中で叫んだ時だった


ガタっ


入口の扉が急に開き、見知らぬ男が入ってきた

「おや、先生

 夜分にすんません

 こっちにこんくらいの女の子来んかった?」


ズカズカと私の前にやってくるその男は

親指と人差し指でこんくらい

と大きさを表している

いやいや、そんなに小さくはないだろうが

それより急に距離を詰めてくるその男に後退りをしてしまう


何だろう苦手なタイプかもしれない


「・・・そちらの子ですか?」


とりあえず、その男のジェスチャーは無視をし

机の下で丸くなっている子どもに視線を移した


「おほぉ

 おもしろいトコにいるねぇ

 あっ これがココの病院のスタイルかいな?」


なんだか言っていることが分からない

その男の言葉に愛想笑いであしらいつつ

院内のランプに明かりを灯す

というか、この男、明かりを灯すまで気付かなかったが

変な佇まいをしている


服はボロボロなのだが、妙に身なりはしっかりとしている

髪は長いがボサボサではないし、整えられてある

髭も剃ってあり、どこか清潔さを感じる

 

「修験道の方ですか?」


医師に為るため、他の病院で勉強していた頃に聞いたことがあった

まだ山もさほど拓けてなく、

この町が今ほど発展していなかった頃

山に麓のためこの町で度々、修験道なる者を見かけることがあったそうだ


修験道とは簡単に言ってしまえば、

山を神聖なものとし、その山で修業を積むことで悟りを開く者たちのことらしい


当時、修験道について教えてくれた先生も詳しくは知らず

修験道について知ったのも、

若い頃に滑落の怪我人として診断した1人が修験道の者だった

とのことだ

ただ、不思議な魅力がある人物で非常に好奇心をくすぐられたという


「アハッ、やっぱりお医者さんて博識ですねぇ」


小馬鹿にされてるような気もするが

とりあえず目の前にいるボロボロの服の男は

否定はしないので修験道の者で間違いなさそうだ

まぁ、肯定もしてない気もするが


「と言っても修験道の方には初めてお目にかかりますがね」


修験道なら物取りではないだろうと安心し

早速、本題の女の子について聞いてみる事にした


「いったい何事ですか?」


「先生、鬼ですわ」

修験道の男は今入って来た入り口を閉めながら

ボソリとそう答えた


鬼・・・?

聞き間違いでなければ

その男が何を指してそう言ってるのか分からなかった


「先生、お、に、ですわ」


いや、二度言わなくとも聞こえていたのだ

理解が追いつかないだけで


「・・・鬼ですか?」

色々聞きたい事があるのだが

まるっきり予想外の事を言われると

何も言葉が出ないものである


そんな訝しげな私の様子を察してか

修験道の男は

未だに机の下に隠れている女の子とやらを

明かりの下に連れ出して来た


どうやら

修験道の男と話す私を観察して

姿を現してもいいという評価を下してくれたのだろう


ペタペタと足取り重く私の前にうつむきながら歩いて来る

ボロボロの格好をしているが普通の女の子の姿に見える

しかし

あと4、5歩ぐらいの距離だろうか

あることに気付いた


照らされる女の子の姿

まさにそれは鬼であった




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