出会い
1.出会い
『うるさいなぁ』平田はハチ公前で人に埋もれながら自然と愚痴を溢した。心底楽しそうに恋人を鏡を見ながら待ってるお世辞にも可愛いと言えない人、イヤホンを耳にぶっ刺したまま大声で騒ぎ立てる人、自分たちはオリジナルだと信じて疑わずどこかで聞いたフレーズを数珠繋がりで歌う人、人人人人。相変わらず批判ばっかだな僕はと自己憐憫に陥っていると、にわかに頭痛を感じたので広場を離れる旨を伝えようと先輩とのラインを開いたその時、1人の男に目が釘付けになった。
その男はひと昔前に流行ったようなブカブカのアロハシャツを身に纏いギラギラした目と軽薄そうに中途半端に開いた口で殆ど水着のような格好の女の子を口説いていた。とまぁここまでは普通。だがおそらく酷い誘い方をしたのか女の子の気が強かったのか女の子はその軽薄な口に向けて振りかぶって右ストレートをぶっ放した。その腰の入った綺麗なフォームを見ながらあぁそろそろ高校野球開幕かとよく分からない感想を抱いているうちに女の子は「最悪っ」と捨て台詞を吐いて走り去ってしまった。
広場の人々は皆視線を外し、不自然に黙り込み、幾秒か立った後何事もなかったかのように動き出した。東京らしいなと感じながら、だが、僕はアロハから目が離せなくなっていた。アロハが、泣いていたのだ、、それも憚りもなく赤子のように。あのアロハよくよく顔を見てみるとおそらく同年代くらいなのかと不意に羞恥心が湧き目を離そうとしたその時、アロハと視線がぶつかった、アロハはゆっくりと体勢を整えながらズンズンこちらに歩いてきた。最初はこの頭ハワイの奴はまた別の女の子にでも声かけるのかと思っていたがどうやら足はぴったりこちらを向いているようだ。
僕は反射的に駅のホームに向けて全力疾走した、「待たんかいコラァ」アロハも逃げる気配を早々に察したのか見た目に反した機敏な動きで僕を追いかけ出した。なにかおもしろいことやってるねっという半笑い顔の大衆を半ば強引にかき分け駅まで雪崩れ込みペンギンの顔を改札に叩きつけた、その瞬間左手をアロハに掴まれた。「いや、別に悪気はなかったんやで?まぁアロハくん自体はダサイとは思たけどさ⁉︎」許して欲しいのか欲しく無いのかよく分からない言葉を咄嗟に返すと、アロハは「ビンゴやん」と小さい声で言った後もう一段大きい声で「この出会いはサマージャンボやん」と騒ぎ出した。あぁこの人は頭がおかしいのだと分かった時にはもう遅かった。「じゃあそこのドトールでも入りましょか」思い返すと僕も暑さでやられてたのだろう。後ろの改札のエラー音が頭に響く。