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永久凍土から神の国へ、世界制覇を目指します  作者: つくたん
あと、50日
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審判を前にして、砂

"コーラカル"と"ニウィス・ルイナ"が同盟を結んだそうだ。


「2つの首領は義兄妹だとか。その縁でしょう」

「成程な」


おおかた、立ち上がったばかりの弱小クランの限界を感じたのだろう。再信審判を勝つために義兄に頼るとは。。自らのクランを作ったり、礼儀にのっとって承認を取り付けたりと目覚ましい活躍をしていたというのに。その点だけは少し感心していた部分もあった。

それがこうとは。どうしても失望してしまう。


「しかしそれが違うのです」

「ほう?」

「同盟を申し出たのは"コーラカル"側だとか」


と、いうことはあの男の計略ということか。

ユーグ・コーラカル・リンデロート。あの男はいったい何を計画しているのやら。

推測しようにも材料が足りない。とにかくわかることは、"ニウィス・ルイナ"はあの男に利用されて食い潰されるだろうということだ。


「ところで、ウィレイ将軍の姿が見えないが……?」


再信審判をどう勝ち抜くかを議論する重大な集会だというのに。

真面目なウィレイ将軍が無断で遅刻とは。確かあの家は妻が出産したばかりと聞いた。乳児はとにかく手がかかるというし、そのせいかもしれない。しかし遅刻の連絡さえ入れぬとは妙だ。


様子を見に行くべきだろう。アマドが適当な部下を走らせようとした。その時だった。


「大変です! ウィレイ将軍が……ウィレイ将軍が……!!」


***


風のクランによる暗殺。これで4人目だ。取りまとめた報告を読み、アマドは思わず眉間を押さえた。

再信審判が近くなり、風のクランの暗殺が活発化していると知っているがここまでとは。


1人目はガレル将軍。将軍の地位にあるが王城に寄ることはほとんどなく、得意の操舵技術を活かして船乗りたちと沖で漁ばかりをしていた。将軍でありながら民に寄り添い、特に船乗りたちのまとめ役であった。

ガレルは掘っ立て小屋同然の漁師の作業場で昼寝をしていたところ、首を斬られて死んでいるのが発見された。彼にフィニスの地への航行の指揮を一任しようとした矢先のことだった。同時刻、船乗りの1人が姿を消した。


2人目はメメ将軍。草木の乏しいクレイラ島で乾燥に強い低木の品種改良を開発した植物研究家だった。彼が品種改良し育てたその木は地面に這うように低く生え伸び、厚い葉で覆うように実を守るという生態をしている。鈴なりにできる実はみずみずしく、砂の地の貴重な水分補給手段になるだろう。

その功績を買って将軍に叙した3日後に毒を飲まされて死んでいた。


3人目はラーナ将軍。槍を得意とし、女性でありながら男にひけを取らぬ力量を持っていた。兵からの信頼も厚かった彼女は『神槍(かみやり)』の二つ名で呼ばれている。

フィニスの地では兵の現地指揮を任せるつもりであった。彼女もまた暗殺された。愛槍で背中を一突きされて事切れていた。


そしてここにきて4人目。頭が痛い話だ。

フィニスの地へ向かう船、食料、兵。どれも再信審判には欠かせない重要な役だ。それをこうも的確に。決めた先から削り落とされていく。

まるで砂の城が足元から崩れていくような気分にさせられる。もうこれは止められないだろう。止める余力すら削り取られていっている。


自分にできるのはもはや走り抜けることだけだ。完全に崩れてしまう前に事を完遂すること。

身からどんどん振り落とされていっているのを自覚しながら駆けるのみ。少しでも失速すればその瞬間に頓挫する。自滅をわかっていて突き進まなければならない。

それが自分の運命なのだ。これまでやってきた事の結末。自分には弓の才はあったが首領の才はなかった。


クランの状況は不甲斐ない先代の汚職まみれの頃よりひどくなった、と囁く声を何度も聞いた。

民からの怨嗟が炎砂の地にこだましている。きっと変われる、良くなると思っていたのにどうしてこうなってしまったのだと呪う声は止まらない。風に巻き上げられた砂がぶつかり合って鳴らす音のように止まらない。砂嵐の季節(シャフジズ)はもう過ぎたのに。


「…………それでも」


一度進んでしまったから。もう引き返せはしないのだから。

最後まで駆け抜けるしかないのだ。蒙昧な首領だったと自らの不出来を自覚しても。自らの信仰のために、やめるわけにはいかない。


駆け抜けるが先か、尽きるが先か。駆け抜けろ、電雷のごとく。


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