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永久凍土から神の国へ、世界制覇を目指します  作者: つくたん
あと、50日
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審判を前にして、樹

「再信審判の手はずについては異論ないな?」

「はい。リネ様」


いつものように、最低限の斥候だけを送り細々と生き残り、おおよその情勢が把握できたところで主戦力を送る。争いも中盤になり疲弊してきた他クランの者どもを万全の主戦力が叩き、侵略する。

それが樹のクラン"トレントの若木"の常套手段だ。ヤドリギが寄生主を殺すがごとく『侵食』して食い散らかす。


「各クランの戦力分析を……イトリ、分析結果を読み上げなさい」

「仰せのままに」


円卓に資料を広げ、情報の分析と観測を担うアレイヴ族の女性は自身の仕事の成果を奏上する。


「まずは火のクランから」


クラン同士で確執があるわけではないが、樹神信仰の上でどうしても火は苦手意識が強い。地理的にも地図の対角線上にあることから、まさに対極のクランだ。


「あそこは15の娘が首領だそうが、どうなのだ?」

「相当意気込んでいるようです。……それが敗因になるでしょう」


絶対に負けられないと気負いすぎている。その意気込みが足を引っ張るだろう。未熟ゆえに判断を誤り、そのミスを取り返そうとして焦ってさらなる過失を重ねる。気負うほどに転んでしまう悪循環だ。

今回の火のクランは大したことがない、というのが観測士たちの分析結果だ。もちろん、首領が未熟でも兵の練度が高ければ多少はカバーできる。再信審判ではそれなりに勝ち進むだろう。だがやはり、首領の未熟さが遠因となって敗退するだろう。


「土のクランは例年通りです。希望者だけをフィニスの地へ送り、積極的に介入しないようで」

「ふむ。竜族が出てこないのはありがたいな」


土のクランに属する土の信徒のうち、ヒトだけならまだどうとでもなる。問題は竜族が出てきた時だ。

その時、再信審判は決着する。竜族の膂力の前ではヒトなど赤子同然。大木でさえ拳の一打で粉砕するほどの身体能力を持つ竜族に正面から勝つ手段はない。

歴代の再信審判の記録では、竜族が出てきた時の土のクランの勝率は100%だ。あれが出てきたら勝てない。

そんな怪物級の竜族が出てこず、消極的な参加であることは非常に喜ばしい。


「雷のクランはどうだ?」

「あれは近いうちに瓦解するでしょう」


首領があまりにも民を切り捨てすぎている。再信審判に勝つという目的を達成するのに不必要だと思ったものは即切り捨てるせいで民の流出が激しい。再信審判に加わる資格なしの不信心者として追放される者、首領のやり方についていけず離反する者、次々と雷のクランから離脱していっている。

あのままではいつか瓦解する。気付けば自分ひとりだけだったなんて結末になりかねないことを首領はいつ気付くのだろう。


「まるで散りゆく葉だな」


まるで落葉のよう。民を緑に生い茂った葉にたとえて形容すれば、議場に小さな笑いが起こった。

あとに残るは裸の幹。葉がつけられなくなった老木はただ枯れゆくのみである。


「直近で気にせねばならぬのは風の信徒たちでしょう」

「そうだな。各自、身の安全を徹底するように」


再信審判を前にして風神の信徒たちの活動が活発化している。

ベルベニ族を中心とした風の信徒は旅と歌と踊りを愛する自由奔放の民であるが、その反面、暗殺の名手でもある。暗殺を生業にする派閥と歌と踊りだけを愛する派閥と2派に分かれるのだが、そのうちの前者が活動を始めているのだ。


再信審判を前にして、各クランの有能な人間を殺していっている。優秀な指揮官を失えば統率は混乱し自滅するからだ。

火のクランの先代首領もまたその手にかかって命を落としてしまった。

ここ樹のクランでもそうだ。再信審判が始まれば真っ先にフィニスの地に送る斥候の先導を担うトネリが暗殺されてしまった。おかげで部隊の編成を考え直さなくてはならなくなった。


「聞けば、雷のクランでは3つの将家の長が暗殺されたそうです」

「なんと」


それはそれは。ただでさえ瓦解寸前だというのに。

首領が民を次々と切り捨てて瓦解寸前、その混乱に乗じて暗殺。さらに混乱する隙をついて暗殺、暗殺、暗殺。きっとものすごくやりやすいだろう。


「雷のクランは意に介さずともよいな」

「えぇ。一番警戒すべきは……」


"コーラカル"と"ニウィス・ルイナ"の2つだ、とイトリは述べた。

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