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永久凍土から神の国へ、世界制覇を目指します  作者: つくたん
あと、50日
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審判を前にして、竜

あぁ、まためぐる。命がめぐる。世界がめぐる。時がめぐる。

すべてのものは循環する。道理に沿って調和をなす。


神の暦で10年。くるりとひとまわり。またこの時がやってきた。


神世(かみよ)の招待の時期か」


前回はどうだったか。ダルクは記憶を掘り返す。

その頃は確か、祭祀の時期とかぶっていて参加を見送ったはずだ。50年に一度の陰陽祭は竜族にとって重要な祭り事であった。世界の循環と調和を寿ぎ、悠久に続いていくことを祈る神聖な儀式だ。

記録では、竜族にとっては再信審判よりも重要な伝統の祭祀だったのでそちらの準備にすべての労力を注いだとある。

しかし、土のクランにあって竜族でないヒトどもは祭祀よりも再信審判に加わりたがり、クラン内の不和を避けるために行きたい者だけをフィニスの地に送った。ろくな準備も支援もない彼らは即座に敗北し、そして魂の循環に乗った。


「不届き者だな」


記録を読み、ダルクはたった一言だけ感想を呟いた。土のクランの信仰は『伝統』。古くからの教えを守り、受け継いでいくことこそが信仰の証明だ。だというのに伝統を軽んじるとは。


「ヒトの寿命は我ら竜族よりも短いですからね」


ダルクの呟きに、記録管理を担う竜族の女性が応じた。

亜人でないヒト(ホモ・サピエンス)の寿命は長くても100年ほど。しかし竜族の寿命は500にのぼる。単純に考えて、76年に1回の再信審判に6、7回は遭遇できる。ヒトよりもチャンスが多いことが余裕を生み、それゆえに再信審判に消極的であれる。

しかしヒトは一生に一度。逃せばまず生きて次は迎えられない。寿命で死んでしまう。死ねば魂の循環に乗って転生するとはいえ、主観では最初で最後のチャンスだ。だから焦り、再信審判に食いつく。

この温度差が土のクランを悩ませている。信仰は同じでもスペックが違うことで意見の対立が生まれてしまう。前回の祭祀と再信審判の重複がまさにその結果だ。


「今回は祭祀もありませぬ。どうでしょう? 蒙昧なヒトどもを押しのけて我らが勝つというのは」

「フリスコ。貴様、ドラヴァキアを軽んじるのか?」


堅牢なる怠惰の山岳ドラヴァキア。それが土のクランの本拠地である巨大な山脈の名だ。

この山脈は地層によって生まれたものではなく、土神の眷属の巨大な竜の背であるというのが土の信徒が一番最初に教えられることだ。巨大な竜が平原に伏せ、その上に土が堆積して下草が生え、木々が茂って山脈を形成したという。

そのドラヴァキアの山に囲まれた大地を領土とするのが土のクラン"ドラヴァキア"の民たちだ。


土神の信徒である彼らにはひとつの教えがある。伝統を守り、土神への信仰をじゅうぶんに示した敬虔な信徒は死んでも魂の循環には乗らず、ドラヴァキアにより神の国へと送られるとされる。

再信審判などに勝たずとも、信仰さえ守れば神の国へと送られるということだ。

それが絶対の教えであり、守るべき伝統だ。


「再信審判などに混じり、蒙昧なヒトどもと刃を交える蛮勇に酔うというのか」

「それは……」

「伝統を守る。それが我ら土の信徒の最もやるべきことであろう」


それでよい。きちんと伝統と教えを守る敬虔な信徒であればよい。この世界で醜く争うことなどないのだ。継ぐべき伝統を蔑ろにしてまで争う必要はない。よって、再信審判などほぼ関係のない話であるのだ。


それでも再信審判に加わり、神の国への招待争いをしたいというのなら。

いつものように、土の信徒でありながら再信審判に食いつくヒトだけをフィニスの地へ。

我ら竜族は伝統を守り土神への信仰を示そう。


それでよいのだ。古より続く通りに。それこそが信仰なのだから。


「そのような有様ではドラヴァキアの迎えもなかろう。フィニスの地へ行き、魂の循環に乗るがいい」

「な……ダルク様!?」

「それが嫌ならばそのような蒙昧な提案はすべきではない。そうであろう?」

「………………失礼しました」


厳しく叱り、ダルクは目を眇める。


焦る気持ちはわからなくもない。世界を読み解く神秘学者の連中が言うには、この世界は不安定でいつ"大崩壊"が再来してもおかしくない環境であるという。今この瞬間にも"大崩壊"が再来するかもしれない。明日、明後日、来月、来年、いつ始まったって不思議ではないのだと。

そのような世界を脱却して神の国へと至る。それがこの世界のすべての命の願いだ。だからこそ、できれば早いほうがいい。死後、ドラヴァキアの迎えを期待するより先に崩壊した世界に巻き込まれて深淵に落ちてしまうかもしれない。深淵には万物を食らう破壊神がおり、食われたモノは消滅してしまうという。

だから、より早く神の国へと行ける招待券を手にしたい。そう思うのも無理はないのだ。伝統と教えを守ることに何よりの重きを置くダルクでも理屈は理解できる。了解しないだけで。


理解の歩み寄りとして、希望者はフィニスの地へ行き再信審判に加わり戦ってよいとしている。

彼らを差別したりはしない。伝統と教えを軽視する人間だと評するだけで、そこに悪意も敵意もない。

こうして希望者だけをフィニスの地へ送ることも古から続く伝統の一環だ。


誰も彼も方法が違うだけで、願うことはただひとつ。


「…………ドラヴァキアよ。我らをどうか救い給え」


我らをどうか神の国へ。

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