審判の手順と勝利条件
「そのような地を進むのですか?」
再信審判では、クランがよりすぐった精鋭をフィニスの地に送り込む。精鋭たちはフィニスの地に降り立って中心地を目指して進む。道中他クランと出会えば戦って進退を決する。
それが漠然と知っている再信審判なのだが、こうしてリグラヴェーダに詳細な情景を教えてもらったことで想像が密に書き込まれる。なんと過酷な地を行くのだろう。
「それはこちらが聞きたいのですよ、ファムファタール」
あの地を知っている氷の民からしたら、神の国に行くと言ってフィニスの地を進む人間が信じられないという。
私たちに配慮して言葉を控えているが、控えずに言うなら正気かと問いたいほどに。命を捨てる愚かな行為に等しい。
「自らの信仰を示すためならもっと他の手段もあったでしょうに……いえ、無粋でしたね」
「構いません。それより、話を進めましょうか」
再信審判はフィニスの地で行われる。各クランは自分の自慢の精鋭を送り出し、適宜支援する。クランからの支援を受けつつ、兵たちは中心地を目指して戦う。ざっくりとした手順は以上だ。
「一手順ずつ確認しましょう。まず、人を送るところからですよね」
「そうじゃの」
まず、クランから船でフィニスの地へ精鋭を送り込む。再信審判のルールでは船でなくてもいいのだが、何十人を一気に転送する武具もなければ他の輸送手段もないのでクランごとに船団を組むのが常だ。
船団はフィニスの地に着いて、まず海岸付近に自分の拠点を組む。そしてこの拠点を軸にして活動を始める。周囲の探索や安全圏の確保、戦闘で負った傷の治療、諸々。
そうして徐々に活動範囲を広げ拠点を移して、フィニスの地の中心地を目指す。
地理的に、各クランの船団はフィニスの地の外縁部に適度な間隔で着岸できるようになっている。分布はばらばらで、わざと同じ海岸に着こうとしない限りは同じ海岸に着くことはまずない。
多少の偏りはできるが、ホールケーキを6等分するように6方向にきれいに分かれる。
「で、彼らが戦い、生きられるようにクランは支援を送る」
遠見の武具で、遠隔地からリアルタイムで状況を見て事態を把握する。食事が足りないとわかれば食料を送り、戦う兵が足りないとわかれば兵を送る。
支援を送る時は船だ。必要物資や人員を載せた船を送る。即到着とはいかないので、先を読んで支援をしなければならない。この船は再信審判のルールにより他クランは攻撃してはいけない。戦いはフィニスの地の中でのみ、だ。
「うむ。そうじゃの。そして、中心地に到着したクランが勝利……神の国へ、じゃ」
支援を受けつつ戦い、他クランを蹴落として中心地にたどり着いた時。その時に勝者が決まる。
勝者となったクランは神の国へ招かれる。この時招かれる人間は、フィニスの地で戦った兵だけではない。それを支えた後方の人々も対象だ。クランを導いた首領も、兵が使う食料や物資を作った人々も、親や教師、師匠として人々を導いた者も、何かしらで再信審判の争いに関わった人々が神の国へと送られる。
"ニウィス・ルイナ"の場合は全員が何かしら関わっているので、この町の人間全員が神の国へと送られる。ソルカやレンといった子供でもだ。
「関わっていなければ?」
「所属していても送られませんね」
クランは国にたとえられる。首都のお祭りが地方の民にさほど関係がないように、自分には関係ない遠い話だからと関わらずにいれば神の国に送られない。
それもそうだ。関与の度合いに関係なく所属する全員が神の国へ送られてしまうのなら、誰かの頑張りに便乗すればいいのだから。それに、全員が送られてしまった後のクランはどうなる。領地を空っぽにする気か。残り、次代に命を繋いで次の再信審判に備えるべき。
「神の国へ。……私たちは勝たねばなりません」
他のクランと比べて規模ははるかに劣っている。あれこれと受け入れて人は増えたが、"ニウィス・ルイナ"の人の数は少ない。3桁は越えた、4桁には届かない。対する他のクランは、所属する人間だけでも数万。クランは国と同義なのだから当たり前だが人口が桁違いだ。
数万の全員が全員再信審判に関わるわけではないのでそこは引き抜いて、フィニスの地に降り立って戦闘する精鋭たちだけで数えても、どうしても数で劣る。
再信審判の敗北条件は、他のクランに中心地を奪われること、そして、支援ができずに戦力が尽きてしまった時。
他のクランは兵が倒されても補充すればいいが、人数で劣る私たちはその余裕はさほどない。
「ですが、戦いが進めば寝返る人もいるのでは? ファムファタールの懸念もわかりますが、寝返る人がいるなら数も増えるでしょう」
最終的に勝ったクランに与していればいい。なら、大勢が決まった時点で有利なクランに寝返ればいい。そういう日和見な人間もいる。当たり前だが。
もし、"ニウィス・ルイナ"の勝利がほぼ決定すれば、旗色を変えたがる連中が続々出てくるだろう。そういう軽薄な人間は信仰も軽いので前線で使い潰すことが定石だが、人数に余裕のない私たちは彼らも大事にしていかなければならない。
それが他のクランとの違いだ。そして、これが欠点になるだろう。対策が必要だ。だが、他のクランと違っていて、欠点になり、対策が必要なことはもう一つある。
「それと……他のクランとの大きな違いはもう一つあるんです」




