雷の王と氷の女
褐色の肌。シャフ族にしては珍しい銀髪と橙色の瞳。鋭い瞳はまるで猛禽のような印象を受ける。
向かい合っているだけで雷に打たれているような気分になる。そんな厳しい雰囲気を漂わせた厳格な人物こそが雷のクランの首領。アマド・ノーレ。
「お初にお目にかかります。ライカ・ニウィスルイナ・カンパネラでございます」
『前置きはいい。承認の件ならば雷のクランはそれを承認する』
元より、敵が増えることは歓迎だ。審判への参加者は多いほうがいい。
"ニウィス・ルイナ"が名乗りをあげるのならばそれを許そう。
要約するとそのようなことを言い、承認はたった一言のもとに済んでしまった。何の交換条件もなく。
雷の民は契約や約束事を重視する。一度決めたらなかなか覆さない。それが不利な条件だろうが、詐欺だろうが。だから承認すると言えばそれはもう覆らない。
――これで、すべてのクランからの承認が揃ったのだ。
…………だが、そこで気を抜いてはいけない。この会談自体はまだ続いている。
承認が揃いました、はい終わりと通信を切れば無礼に過ぎよう。首領に直接追及したいこともある。
「つい先程、雷のクランからの追放者がこちらに漂着しました」
彼からの反応は特にない。黙って続きを促しているようだった。
「あの追放は雷のクランの正式なものでしょうか?」
それとも、誰かの独断か。できれば後者であってほしい。信奉する首領の方針に逆らうなら出て行けとヒステリーを起こした誰かの独断であれば、まだ救いがある。
そうでなければ。
『あぁ。確かに。不信心者を叩き出した。……そうか、どこかに漂着したとは運がいい』
「…………それは、途中で全滅してもよかった、と?」
雷のクランから漂着者が来たと外交問題になるくらいなら、いっそ。
そんな冷酷なことを言うつもりか。つもりなのだろう、そんな口調だ。
問い詰めれば案の定、肯定が返ってきた。
なんて『合理的』なのだろう。反吐が出る。
それについて憤慨したい。したいが他のクランのことに口を出すわけにもいかず。歯噛みして耐える。
冷静に、冷静に。自分に言い聞かせてから息を吐く。
「……では、彼らを我々"ニウィス・ルイナ"に組み込むことは構いませんか?」
『あぁ。好きにするがいい』
よし。言質は取れた。この瞬間から、彼らは我々の一員だ。映像に映らないところに立っていたヘクスが本格的な治療と介護のため駆け出していく。
彼らについてはしばらくヘクスに任せよう。絶対にひとりも死なせてくれるなよ。
では次の話題だ。当然、アグリネの件だ。
取り次いだ文官には問わぬと言ったが、あれはあの人に言っても仕方ないことだからだ。すべての責任者たる首領が相手なら問うことも多々ある。
「将家の独断と聞きましたが」
『あぁ。そうだな。命令を無視した当人は処罰した』
処罰。うん、その言い方から何となく察した。処刑したのだろう。
…………私はそのことに口を挟む権利はない。
「アグリネの身柄はどうなさるおつもりで?」
『それこそこちらが聞きたい。預かるつもりなら預けよう』
雷のクランを破門し、"ニウィス・ルイナ"へ移籍させる。
彼女もまた切り捨てるというのか。あぁまったく無駄を省くことが好きで『合理的』なことだ。
自分についてくる人間だけが必要で、自分から離れていくものは切り捨てる。去る者は追わないが、追わないぶん、たちが悪い。
「アグリネ本人は、私に従うと言っているのですが」
『そうか。ならそうすればいい。取りまとめるべき話は以上か?』
「…………そうですね」
彼の表情から察する。今この瞬間、彼の『身内』のくくりからアグリネは外れた。雷のクランに戻ったところで居場所はないだろう。
何ともまぁあっさりと切り捨てるものだ。信頼や信用といった概念がきれいに抜け落ちている。だからこそこれほどまでに私は彼を軽蔑したような気持ちで見てしまうのだ。
『それと』
「はい?」
『感情が表情に出ている』
首領として立ち回るなら改めるべきだ。それだけを言い残して、通信が切れてしまった。
言うべきことは話し合ったのでこれ以上のやり取りは無用だと言いたげに。
完全に沈黙した武具を閉じ、はぁ、と溜息をつく。もう限界だ。
「あああああああああああああああもう!!!!!」
「落ち着かんかい」
「いやもう何ですかあの冷血漢は!! ほんっと、信じられないですよ!!」
表情に出ていたのは失態だが、声を荒らげなかっただけ褒めてほしい。
だってもう信じられないじゃないか。あんなふうに、あっさりと切り捨ててしまえるなんて。
首領として、クランの存続のために冷酷な決断をしなければならないとか、そんな悲壮なあれこれではなく、自分にメリットがなくなったら捨てるなんて。
そんなの、絶対に悲しいし虚しいじゃないか。そうやって切り捨てて、最後には自分だけしかいなくなってしまうのに。最後に残った自分だけで神の国へと至るつもりか。神の国へ至れるなら自分だけで構わないとでもいうのか。そんな信頼や信用のないやり方で、神々からの信を問う審判を切り抜けられるわけがない。
あぁ、そうだ。この怒りはあの時と変わらない。信を裏切る手段で再信審判に勝つと言った義兄さんに反駁した時と同種の憤慨だ。
そんなことで、どうやって、あぁ! もう!!
「絶対に勝って、私たちの正しさを証明してやりますからね!!!」




