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永久凍土から神の国へ、世界制覇を目指します  作者: つくたん
氷の民"リグラヴェーダ"
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あっけなくそれは下された

数日後。

水のクランと土のクランからの返答は、連名で、かつ最低限の言葉での承認だった。

その承認の根拠も、"ニウィス・ルイナ"が再信審判に参加することに反対する理由がないから、という薄いものだった。


首領としてではなく義兄として、と前置きされた同封の手紙曰く、かなりの労苦があったそうだ。

恩着せがましくはしたくないらしく具体的なことは述べられていないが、おおよそ見当はつく。あの両親がどうこう騒いだのだろう。そのあたりを説き伏せたに違いない。

それから、と続く文は承認の根拠の補足だった。そもそもどうして『6クランで』争っているのか。はるか昔から『そう』だったので違和感なく受け入れていたが、どうして『そう』なのか。この世界には水土火風雷氷樹の7属性があり、それぞれのクランはそれぞれの属性を司る神を信仰している。空いているのは氷神とその信徒だけ。

いや、そもそも同じ神を信仰していても方針で袂を分かつことはあるだろう。"コーラカル"と"ニウィス・ルイナ"のように。水神の信徒のクランが複数存在し、それぞれが再信審判に名乗りをあげたっておかしくはない。

それがどうして今まで『6クランで』行われてきたのか。ルールに対する疑問が承認の背中を押した。


水のクランは知恵のクラン。知識を求め、可能性を探り、議論する。昔から『そう』だからと思考停止して受け入れることは水神への背信につながる。考えを止めず、常に模索し続けることこそが水神への信仰を示すことになる。

だからこそ、ルールに対する疑問は突き詰めなければならない。どうして『そう』なのか。今までこのような事態はあったはずだ。どこのクランにも属さぬ集団がクランを名乗って再信審判に名乗りをあげるなんて、この数千年一度もないなんてありえない。

いるはずのそれらは歴史にはなく、ではどうして歴史にないのか。もしや抹消されたのか。抹消されたとしたらどうして。

それを追求する一環として、"ニウィス・ルイナ"という異分子を受け入れる。乱暴に言ってしまえば実験だ。


義妹を検証に利用するようで申し訳ない、と締めくくられた手紙にはそう書いてあった。


「……リグラヴェーダは理由を知っていますか?」

「いいえ。氷神ならば知っているでしょうが、私はそれをつまびらかにする権利と許可を持っていません」


つまりは秘密というわけだ。

真実に通ずる氷神なら知ってるだろうからあるいは、と思ったが、どうやらそれを公開する気はない、と。

秘密は秘密のままで。人間は神々の思考を知らなくてもいいというわけだ。


「以前、ファムファタールから再信審判についてお聞きしたことを覚えていますか?」

「? えぇ。はい」


これまで永久凍土にいて外の世界を知らず、再信審判という概念さえ抜けていたリグラヴェーダに再信審判というものを説明したことがある。この世界はもう崩壊寸前の危うい世界で、だから神の国へと移動しなければ人間は永らえない。そのためには再信審判に勝たなければならないということを。

その時、リグラヴェーダは再信審判について戦争ではなく決闘のようなものだと感想をつけた。


「真剣な決闘ほど横槍を許さないでしょう? それに、1対5と1対6では労力が違うじゃないですか」


決闘に横槍を許さないという高潔さ。そして敵は少ないほうがいいという現実的な路線。その2つから、新規に立ち上がったクランは潰されてきたのではないか、と。

クラン同士の争いは禁じられているものの、自クランの領土内であれば内輪揉めとしてこじつけて片付けられる。勝手に変な集団が現れたので粛清しました、と。


"ニウィス・ルイナ"がそうならなかったのは、この永久凍土の大陸に根を下ろしたことでどこのクランの土地を借りなかったことが大きい。仮に水のクランの領土内であれば内輪揉めで片付けられていた。

そして、樹のクランの承認を真っ先に取ったこと。イルス海の平定という裏切れない功績でもって得た承認は、"ニウィス・ルイナ"をひとつのクランとして認めるに十分な効力だった。

あの瞬間、水のクラン内での内輪揉めではなく独立したひとつのクランとして、"ニウィス・ルイナ"は世界に踏み出すことができたのだ。


「過去に潰されてきた者たちと比べ、とてつもなく物事がうまくいった、と」

「そういうことですね」


氷神が司る真実ではなく、あくまで私の解釈ですが。そうリグラヴェーダは話を締めくくった。


「このまま最後までうまくいくといいんですけどねぇ……」

「大丈夫ですよ。私がついていますから」


ファムファタールの命令ならどんなことでも。自らが罰されようとも必ずや"ニウィス・ルイナ"を神の国へ。

そう言い切るリグラヴェーダに眉を寄せる。原初の時代から生きる彼女がついていることは心強いが、その意気はいけない。リグラヴェーダも我々"ニウィス・ルイナ"の一員だ。取りこぼすことなくきちんと彼女も神の国へと連れて行かねば。置いてけぼりなんて寂しいじゃないか。


「その時にはあなたも一緒ですよ、リグラヴェーダ」

「まぁ。まるで愛の告白みたいなことを言うんですね」

「なっ!? ち、違います!!」


そういうつもりじゃないです!!

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