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永久凍土から神の国へ、世界制覇を目指します  作者: つくたん
土のクラン"ドラヴァキア"、水のクラン"コーラカル"
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監査役は何を見たか

驚いた、と後にスレンは自身が掲げる首領にそう報告することになる。


路地を歩き、町並みを眺める。港から領館へ一直線につながる道路の両脇の建物は無人で寂れた印象がある。地理的に、町の中心部に位置するはずの大通りなのに人の気配がまばらだ。しかしながらどうしてか、中心部から離れるほどに人の活気が増えていき、建物も道もきれいに整備されていっている。


「もし。よろしければひとつお訊ねしてもよろしいでしょうか?」


道行く人にその理由を訊ねれば、この町は太古に観光都市だったという。町の中心部は観光客用の区画で、民が住む区画は外縁部にある。なのでなので観光客もいないこの町では中央部がどうしても寂れてしまうのだと。

そう答えた木こりは太い丸太の乗った台車を引く。これを鋸で切って整えて建物の修理用の建材にするのだそうだ。建材にならない端材は斧で割って薪にするという。


「ついていっても?」


住民の仕事姿を直に見るチャンスだ。同行の許しを頼めば、至極あっさりと頷かれた。

それでは、と木こりの男についていく。町の東側は工業を中心に発展しているらしい。北東に銀鉱山があるからだそうだ。その鉱山は調査の途中で、十分な鉱石を確保できる鉱脈があるのであれば採掘の計画を立てるのだそう。


とはいえ今は林業だけ。町の外にある森から木を切り出し、それを建材や薪にする仕事が現在の中心である。

そうスレンに講釈を垂れたシュミットという男は、作業場に着くなり台車を別の男に引き渡した。作業は工程ごとに担当者を決めているらしく、シュミットの仕事は森から作業場へ台車を引くことだった。木材の加工は別の者がやるのだそう。作業場の中を見学したいなら作業場で働いている人々の許可をもらうようにと言い添え、シュミットはまた台車の運搬のために来た道を戻っていった。


「失礼します。作業を見学させていただいてよろしいでしょうか?」

「おぉ。土のクランの人だったか。……あぁいや、申し訳ない。どうも作法がなっていなくて……はい、土のクランからの方ですね? どうぞご覧にならっしゃってくださ……うん?」

「普段通りの言葉遣いでどうぞ。作業も平時通り行ってください。邪魔にならない場所で見ているだけですので」


慣れない言葉遣いで変な口調になっている男の様子に苦笑いを漏らしつつ、許可を得たスレンは柵で囲われた区画に足を踏み入れた。

入ってすぐの場所には台車から下ろした木材を積んだ山。そのすぐ隣には鋸と台座。入り口から入ったところから見て、左から順に加工がなされていくよう作業台が配され、そして右の端にきれいに加工された建材が積まれている。その建材の山を区切りにして右奥へと作業区画が伸びている。聞けば、あの奥は端材をまとめて薪にするための薪割り場だという。


「見ても?」

「もちろん!」


促され、薪割り場の区画へと歩を進める。

薪を割るための台座と、薪にするための丸太材。そしてその木を割っているのは竜族の子供だった。

あれは今回の監査の対象でもある竜族の少年だ。間違いない。名前はソルカといったか。

少年の身丈の半分ほどもある斧で木を叩き割っている。割った薪は赤毛の少年が拾って縄で縛ってまとめている。周囲に大人の姿はない。


「あんな子供が労働をしているんですか?」


子供だって大人の手伝いをするということはあるだろう。労働力が不足しがちな小規模集団ならなおさら。

しかしあれはどう見ても手伝いの範疇を越えている。『手伝い』ではなく『労働』だ。

子供とはいえ、竜族の身体能力ならあの程度『軽い運動』に含まれるくらいではある。しかしそれにしたって。


子供を労働させるだなんて。子供は次の世代につなげるために不可欠であり、そのために学び、育ち、自らの才能を見つける必要がある。労働などさせてその才能の芽を潰すことはあってはならない。

首領のあの女はこのことを看過しているのだろうか。だとしたら大問題だ。一時の手伝いならともかく、労働に従事させるなんて。それとも、学びの機会を潰してまで働かせなければならないほど、このクランはよっぽど困窮しているのか。


「……もし」

「うわっ!! なんだ、土のクランのひとかよ」

「驚かせてすみません。……あの、これは君たちが?」

「そうだぞー! ソルカと一緒にやってるんだ!」


薪を束ねている少年に声をかければ、誇らしげに返事が返ってきた。

レンと名乗るキロ族の少年が言うには、この仕事は大人たちに任されてやっていることなのだそうだ。学校が終わってから夕飯の時間まで、余った時間を薪割りに費やしているという。


「……あん? 誰だ、お前さん」

「わ……っ!! っと、すみません」


ぬぅっと、後ろから現れた大柄な男に驚き、それから慌ててスレンは非礼を詫びる。

図体の大きさに思わず驚いてしまった。失礼なことをしてしまったと詫びてから、ガーディナーという名の男へ話を向ける。

少年たちのあの労働はいったいどういう意図があってのものなのだろうか。問えば、なんてことのないようにガーディナーは答えた。


「見ての通り、薪割りだが……?」

「いえ、そうですが……どうして子供に労働を?」

「あいつらがやりたいって言い出したから任せてる。それだけだ」


曰く。あの竜族の少年は案の定ヒトの社会で自らの膂力を持て余していたそうだ。友人を罵倒した大人を突き飛ばして怪我を負わせてしまったりなど、自らの身体能力に折り合いがつけられなかった。

そこで力の使い道として薪割り仕事を任せてみたのだそうだ。試しにやらせてみたところ、本人がいたく気に入り、それからずっと薪割りはあの少年たちの担当だという。もちろん労働に見合う報酬はきちんと出しているし、学業優先だ。


「大人顔負けさ。うちじゃソルカ以上のヤツはいねぇ」


薪を割るペースも早いし、しかもきれいに真っ二つに割るのだ。速度も技量も誰もソルカに追いつけない。持て余していた膂力が役に立った瞬間はソルカの誇りとなっている。


「……『信頼』ですか」

「あぁ……まぁ、そうだな」


成程。『信頼』のクランというわけか。そこに結論を集約させたスレンに、あぁとガーディナーは頷く。そこまで大仰なことではないのだが。話は単純だ。


「本人がやりたいことを大人の都合で取り上げちゃいけねぇってだけさ」


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