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歴史の授業『再信のために』

再信の契約。それは神々が人間を許した瞬間だと言われている。

伝聞調なのは当時の記録がないからだ。"大崩壊"から不信の時代の間の歴史的資料はほとんどない。『あった』とされる言い伝えがあるのみだ。それはまるで焚書されたように。

これほどまでに痕跡がないことについては様々な憶測がある。一番主流なのは、人間の過ちの記録を完全に消去することで精算したのだろうという説だ。よくあるだろう、若さ故の過ちがたっぷり詰まった黒歴史を消してしまいたい衝動が。あれと同じような精神原理で痕跡を消した。


どういうわけかは置いておいて。とにかくそれで人間は『許された』。

神々は再び人間を信じ、神々の世界から人間の世界に顔を覗かせようと決めたのだ。


「喧嘩して、絶交してそれっきり……長いこと会ってなかった知人をふと思い出して、会ってみたくなるような……そんな気持ちでしょうかね」


世界を振り返った神々は人間に一つの条件を提示した。レーラル女史のそのたとえになぞらえて続きを言うならば、『もう一度仲良くしたかったら誠意を見せて』だ。

そうして持ちかけられたのが再信の契約だ。神々が許した人間だけを神の国に招き、神の国に招いた人間のみと再び相互信頼を築いていくと。


「その『信ずるに足る人間か』をはかるものが再信審判といいます」

「しってる!」

「オトナたちがよく言ってるもん!」

「えぇ、次の審判の時期まで近いですからね」


誰も彼も信じるから裏切られたのだ。だから、信じられる相手かどうか見極める。人間関係にサイズダウンして例えならそれが再信審判だ。神々から人間へ、再び信を問う裁き。


そのために行われるのが、世界の中央大陸を舞台にした戦争だ。戦争といってもそれほど凄惨ではなく、どちらかというと自慢の戦士を闘技場で戦わせる決闘のようなものに近い。

神の世界に消えた元素神たちをそれぞれ信仰する信徒たちによる信仰合戦。戦い、そして中央大陸を制した勢力が勝者となり、審判に合格した者として神の国へと招かれる。


「せんせぇ、なら、たたかいにまけて、しんだひとたちはどうなるの?」

「カミサマのくにに行けないの?」

「そんなことないですよ。死んだ魂は転生して、また次の審判に間に合うように生まれます」


審判は定期的に行われる。審判の勝者が決まった後、休審期を挟んで次の審判が始まる。周期はおよそ70年ほどに1回。その間に前回勝者の勢力もまた頭数を増やして、次の審判に参加する。勝ったからといって勝ち抜けるわけではない。勢力に属していながら戦争に参加しなかった人間だっているのだから、そういった人間が残って後に世代を繋ぐ。

そうして審判が行われ、勝った勢力がまた神の国へと招かれ、戦いに敗れて死んだ魂は転生し、休審期を挟んで次の審判が始まる。


「勢力はそれぞれ各元素神を信奉していて……元素はわかりますか?」

「はいはーい! しってる! 火と水と風と土と雷と樹と……」

「あと、氷!」

「はい、正解です」


火水風土雷樹氷。7つの元素に対応した7柱の神。うち氷の神は再信審判に関わらないので残り6柱。つまり、その6柱をそれぞれ信仰する6つの勢力が再信審判に挑むことになる。


「ねぇレーラルせんせ、カミサマのくにってどんなの?」

「うーん、神の国へと招かれて戻ってきた人がいませんから……」


この世界よりも良い場所なのは間違いない。この世界は存続するにはあまりにも傷つきすぎてしまった。古びて擦り切れ、壊れかけているも同然だ。傷ついた後の世界に生きる私たちには実感がないが、"大崩壊"はそれほどまでに世界を傷つけた。

だからこそ新しい場所で新しく関係をやり直すことが必要なのだ。再び神々と人間の絆を取り戻すにはこの世界ではだめなのだ。それに必要な手続きが再信審判であり、その過程に6勢力による戦争がある。


「えっと、わたしたちは水のクランなんですよね、せんせい?」


我らが故郷は水の神を信仰している。再信審判の参加勢力としての名は水の勢力(クラン)、"コーラカル"という。南東大陸の北側を支配し、知恵を重んじ、慈悲と知恵でもって再信審判に挑む信徒たちである。


「いいえ、違います。違うんですよ」


だがそれは私たちに当てはまらない。だって私たちは"コーラカル"から離反したのだから。

水のクランではない。火でも風でも土でも樹でも雷でもない。6勢力に割り込む『7つ目』だ。


「じゃぁ、えーと……」

「残りの氷……ということになるでしょうか、ライカ様?」

「む……」


確かに氷は欠番だけれども。ここは永久凍土の地だけども。でもそこに私たちを当てはめるには、私たちはあまりにも氷神を信仰してなさすぎる。氷の神の信徒の勢力と名乗れるほど氷神に対して敬虔ではない。氷の名を借りるには色々と信心が足りない。


「仮のXということで……」

「曖昧ですねぇ……」


子どもたちへ噛み砕いて説明しづらいだろうが許してほしい。氷が欠けているから氷の席におさまるなんてそう単純な話でもないのだから。


「いいですか。悪いことをしたら再信審判に参加できませんからね。死んでも転生せず、深淵の中に落とされるんですよ。だからイタズラをせず、神様を大事にしてくださいね」

「はぁーい! レーラルせんせ!」

「いい返事です。でも、座学の成績も良くなりましょうね、レンくん」

「う、うんどうのセイセキは良いもん!!」


教師と生徒の微笑ましいやり取りを眺めて相好を崩しつつ、さて、と立ち上がる。

これで歴史の授業は一区切りしたし、そろそろ大老のもとに戻ろう。順調なら、ベウラー夫妻の斥候部隊が東部偵察から帰還して来る頃だ。


「それじゃぁ私はこれで。レーラル女史、ありがとうございました」

「あらライカ様。行ってらっしゃいませ」


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