彼らの処遇と監査について
「処遇、ですか」
「あぁ。父親の方……カドゥさんは土のクランに所属しているんだ」
父親は土のクラン"ドラヴァキア"に所属。ソルカは私たち"ニウィス・ルイナ"。しかしもとを辿れば、元々は水のクラン"コーラカル"の所属。
ではこの親子をどこのクランに置くべきか。本人たちを交えてその話し合いをしなければならない。
「"コーラカル"としてはうちでも、よそでも構わない」
と、いうより、今回"コーラカル"は私たちと土のクランの仲立ちのためにいるという。
ソルカはうちの所属だから父親を組み込むと主張するだろう私と、竜族は竜族の元でと主張する土のクランとの。
「そこで、"ドラヴァキア"と話し合った結果、我々の代表者を"ニウィス・ルイナ"に視察に入れようと思う」
「視察ですか?」
「そう。民を思う首領として、民をみすみす悪環境に置きたくはないからね」
平たく言えば、監査だ。ひとが住むに足りる環境を"ニウィス・ルイナ"が持っているか。食料や物資の充実度はもちろん、民の充実感や幸福度といった面でも。
この親子が暮らしていっても大丈夫だろうと判断できたのなら、親子の身柄を"ニウィス・ルイナ"に預ける。とんでもない悪環境でとても生活させられないと判じたのなら、私たちがどうこう言おうと親子は"ドラヴァキア"へ。
そういう取り決めを義兄さんと土のクランはしたらしい。私をここに呼びつけたのは、それを通達するため。
「それと、次第によっては再信審判の参加も承認しようと思っている」
「……本当ですか!?」
「あぁ。我々に並び立てると思えたなら、だけどね」
肩を並べるに十分であると判断されたなら、水のクラン、土のクラン両方の承認が得られる。
とんでもないチャンスだ。おいしすぎる。絶対に何らかの罠がある。土のクラン側はどうか知らないが、義兄さんのことだ。絶対に何かを仕込んでいる。
この監査そのものが罠かもしれないし、これから罠を張るための観察かもしれない。
だが。
「わかりました。お受けします」
それを知っていて受けなければならない。ここでそれを蹴る道などありはしないのだから。
「まぁ……最終的な判断はカドゥさんに一任することになるけどね」
親子がどこに住むかについては、親子の意見を最も尊重する。そう義兄さんは言った。
それについては私も同意見だ。すっかり置いてけぼりにしてしまっているが、2人の意思を無視して事を進めることだけはあってはならない。
"ニウィス・ルイナ"は『信頼』のクラン。対話と協調、相互理解の末に信頼を掴むことを掲げているのだから。
しかし親子の所属と承認の話は別。むしろこの監査はこちらがメインだ。
"ニウィス・ルイナ"が勝手に息巻いているだけの集団なのか、それともきちんと信念と信仰をもって運営されているクランなのか。彼らが判断したいのはそこだ。
そして同時に、義兄さんは私を見ている。私が一時の反発で勢いのままに暴走しているだけなのか、本気なのか。それをはかるつもりだ。
上等じゃないか。いつまでも立派な義兄の後ろを追う私ではない。
……と、啖呵を切れるほど自信はないが、それでも私は切り抜けられると信じている。
「ところで、"ドラヴァキア"からの監査役はえぇと……スレンさんだとして、"コーラカル"からは?」
「あぁ。それならぴったりの人材を用意しているよ。もうすでに港の方に送り出している」
……一体誰だろう。
***
これにて会談は終わり、と議場を出て港へと向かう。
ソルカと彼の父親はずっと手を握り、絶えることなく言葉を交わしている。今まで空白だった時間を埋めるように。
その背中を眩しく思うのは私の親子関係が健全でないからだろうか、などと感傷に浸っている場合ではない。そう思う感情はしまっておいて、首領としての仕事に集中しなければ。
「改めてよろしくお願いします、スレン様」
「こちらこそ。それと、俺……いえ私はしがない竜族ですので、あまりかしこまらずに」
珍しい。あの傲慢な首領にこんな謙虚な部下がいたのか。
よかったと安心する。首領同然に傲慢だったらどうしようかと思っていたところだ。付き合い方ではなく、リグラヴェーダが発する敵意の意味で。
黙って静かにしているが、もしあのような傲慢な態度であればその時は、みたいな雰囲気をひしひしと感じる。その吹雪のような過激さをおさめてほしいのだが。
「……と、そろそろ港ですね。"コーラカル"の監査役の方は……」
義兄さんが言っていた通りなら港で待っているはず。さてどこだ、と首をめぐらせれば。
「お待ちしておりました。"ニウィス・ルイナ"首領のお方。エレナ・コーラカル・リンデロートでございます」
「………………ね、姉さん!?」




