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永久凍土から神の国へ、世界制覇を目指します  作者: つくたん
土のクラン"ドラヴァキア"、水のクラン"コーラカル"
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水都に帰郷し、親子は再会する

水のクラン"コーラカル"。その本拠地に私は再び降り立った。


――里帰りである。


「ここは変わりませんね……」


水のクランというだけあって、水のクランの中心地は海岸沿いにある。国でいえば首都にあたる町の名は貿易都市エルジュ。

その風景は私たちが出奔した時と何一つ変わらない。年単位で月日が経過していないのだから当たり前なのだけど。


「ここがファムファタールの故郷なのですね」

「えぇ。一応は」


興味深そうに周囲を見回すリグラヴェーダと、そしてソルカを連れて舷梯を降りる。見えないがナフティスもついてきている。

往復の海路を担う船乗りたちを港に置いて、水のクラン"コーラカル"首領の妻からの招待状を手に、指定された場所へと向かう。目的地は貿易都市エルジュの中心、政治の中枢である議会が開かれる議場だ。

あの白亜の建物は、私がかつて通い詰めていたところだ。両親に認められたくて自己研鑽を積んでいた子供の頃から、あの場に加わることを夢見ていた。


「"ニウィス・ルイナ"首領のライカです」


議場の出入り口を守護する門番に招待状を見せて中へ。出奔したあの子が帰ってきたという驚愕の視線は港からここに来るまで何度も受けたので無視しながら進む。

門兵から引き継ぎを受けた下級議員に案内されて、歩を進める。


角を曲がったところで、ふと、私の足が硬直した。


「エレナをより活用するには……再信審判の……」


ぶつぶつ呟きながら廊下を歩いてくるその姿。見間違えるはずもない。

あれは、私の父親だ。


「ファムファタール?」

「…………いえ。何でもありません」


父親。だが、出奔した時に親子の縁は切れてしまったも同然。切れた、いや、もともとつながっていなかったかもしれない。はなからあの人たちは姉さんだけ見ていたから。


もはや他人。そう思ってすれ違おう。あちらは私に気付いたようだ。だが言葉を交わす必要はないだろう。

うつむくことなく真っ直ぐ正面を向いて堂々と。すれ違うまであと1歩だ。


「裏切り者め」


すれ違う瞬間、ぼそりと罵倒が囁かれた。

私はその言葉に振り返ることなく、案内人にしたがって廊下を進む。しばらく進んで、応接室へと通される。座れと案内されたソファに腰掛けて、案内人が首領を呼びに行くのを見送る。


「……無礼な人でしたね」


落ち着いた頃、ぽつりとリグラヴェーダが呟いた。先程廊下ですれ違った父親が漏らした罵倒の話だろう。

確かに、あの罵倒は無礼にすぎる。今私は"ニウィス・ルイナ"の首領としてここにいる。他クランの首領に向ける言葉ではない。

あれは、"ニウィス・ルイナ"が新興したての弱小クランである侮りからではなく、『エレナに劣る愚妹の分際で出奔した裏切り者』という身内へと向ける罵倒だ。


「不謹慎かもしれないですが、私、結構嬉しかったりするんですよ」


たとえ罵倒とはいえ、両親の心に私の存在が残っているのだから。どんなに努力しても無視されていた子供時代に比べれば、とても、とても幸せなのだ。どういう形であれ『私』を見てもらえるのだから。


「ファムファタール……」

「とにかく、さっきの発言は構わずに」

「……わかりました」


そんな顔はしないでほしいものだ。この感慨が歪んでいることくらいは私も自覚している。


***


がちゃり、と応接室の扉が開いた。先頭で入ってきたのは水のクラン首領、ユーグ・コーラカル・リンデロート。私の義兄だ。

その後ろに黒い角の竜族の男性と、そのさらに後ろにソルカと同じ色の角をした竜族の壮年男性。最後に入ってきた壮年男性の顔を見て、ソルカが目を見張った。


「……父さん!」

「ソルカ!」


弾かれるようにソルカがソファから立ち上がり、壮年男性に抱きつきにいった。彼もまたしっかりと息子を抱き返す。一人にさせてすまない、と嗚咽が聞こえた。


「親子の確認は必要ないようですね」


そのようですね、と頷きかけ、はたと止まる。

この黒い角の竜族はいったい誰だろう。見知った記憶はない。


というか、私としたことが挨拶をすっ飛ばしていた。いけない。私は"ニウィス・ルイナ"を背負う立場なのに礼を欠くとは。これじゃぁ親子とはいえ他クランの首領へ罵倒を囁いたあの人をどうこう言えない。


「大変失礼しました。"ニウィス・ルイナ"首領、ライカと申します。こちらは補佐のリグラヴェーダです」

「義兄妹だ、楽にしてくれて構わないさ」


義兄さんはそう言って、春の日だまりのように穏やかに笑った。気張らなくてもと言われても、しかし、これは義兄妹の再会ではなく首領同士の会談なのだから気を楽にしてはならない。すれば無礼討ちで追い出すだろう。その罠をさり気なく混ぜてきた義兄さんの微笑みに警戒の視線を返す。


よく引っかからなかった、合格だ。そう言いたげな微笑みが返ってきた。

さて、と小さな駆け引きを終えた義兄さんは、隣の黒い角の竜族を見た。


「……紹介しよう、彼はスレン・ドラヴァキア・イリク。土のクランからの使者だ」


この、再会したての親子の処遇についてを話し合わねばならない。

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