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永久凍土から神の国へ、世界制覇を目指します  作者: つくたん
内政 よりよい暮らしを
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雪鹿フルゴル

「雪崩を振り切る手段ですか?」

「えぇ。平原には雪鹿がいるのです」


雪鹿フルゴル。雪上の移動能力が発達した大型の鹿なのだそうだ。首にたてがみがあり、雪と接する胸と腹の皮が厚くなっている。

星の煌めきに例えられるほど足が速く、また首から下が雪に埋もれてもそのまま雪をかき分けて進むほどのパワーとスタミナを持つ。たとえ獣に噛みつかれたとしても、駆けて振り落としてしまう。

そんな獣が北の雪原に生息しているのだそうだ。ベウラー夫妻からやたら足が速い鹿がいると聞いたことがあるが、成程そいつか。


「人間よりもずっと速いあの脚なら、勢いが減衰した雪崩程度、振り切ることも可能でしょう」


何匹か捕まえ、家畜として飼い慣らして騎乗できるように調教すれば、森と町をつなぐ足になる。

速度は落ちてしまうがソリを引かせることだってできなくはないだろう。

それがリグラヴェーダの提案だった。


「成程……ちなみに牧畜としての価値はどんなものでしょう?」


移動用としてではなく、皮や肉の利用価値について。食肉にも使えるのなら喜ばしいことはないのだが。


問えば、リグラヴェーダの答えは芳しくないものだった。

皮や毛は使える。角も何らかの加工をして装飾品などにはできる。しかし食べるという部分では推奨はできない、平たく言えばまずいということだった。

寒さに耐えるために脂肪が多く、積雪を掻き分けて進むほどのパワーとスタミナを維持するために筋肉が発達している。油っぽくて筋張っていて食べにくいし調理しにくい、そしてまずい。


「食肉用には期待できませんね……」

「えぇ。贅沢は言ってられないのなら話は別ですが……」


木の根をかじるほど困窮しているなら話は別。だがそこまで飢えていないのでまず食べなくていい。

肉については森に生息する雪うさぎや、樹のクランから交易して得た干し肉がある。そちらで賄うべきだろう。


それでは情報収集は十分、実践に移すとしよう。


***


「そういうわけで、ウェナトルにはフルゴルの捕獲をお願いしたいのですが」

「あ、それで呼ばれたんですね。よかった、また兄が何かしたのかと……」


苦労してるなぁ……。


さて、そんなウェナトルの苦労はさておき。


雪鹿の捕獲といこう。とりあえず試しに1匹捕らえて、飼育環境を把握し騎乗用に調教した後にさらに何匹か追加、ということを今のところは考えている。


「あぁ……あの鹿、そういう名前だったんですね。やたら早くていつも捕まえられなくて……」


ウェナトルやベウラー夫妻もその姿を知っているようだ。

どうやら、フルゴルは追われることに敏感だそう。特に真後ろからの追跡になると、雪など意に介さずあっという間に駆け逃げてしまうそうだ。

雪で足を取られることもなく、というか雪を蹴散らして駆けていくのだから捕まえたことは未だにないという。


「ベウラーさんとこの奥さんのほう、アレを絶対捕まえて晩飯のテーブルに載せてやるって息巻いてましたけど……え、おいしくないんですかあれ?」

「残念ながら」


リグラヴェーダから聞いただけなので本当かどうかはわからないが。

まぁ嘘を言う必要もないので本当だろう。


「んー、どうやって捕まえましょうねぇ……」

「そのあたりは専門家であるウェナトルたちに任せます。必要なものがあれば用意しますので」

「設置罠が一番有効かな…………あ、すみません。ちょっと考え事を……。わかりました。何か必要なものがあれば申請しますね」

「えぇ」


あとはそうだ。捕獲したフルゴルを飼育する場所の確保だ。

昔は養牧場だったらしい空き地は、町に入植した時は柵も壊れ雑草も伸び放題の荒れ地だった。それを修理し整地していると聞いてはいるが、現状はどうなったのかは把握できていない。

私が樹のクランや火のクランの本拠地に出かけている間に整地が終わったのかどうか。十分でないのなら、ウェナトルたちにはフルゴルの捕獲を先延ばしにしてもらわなければ。


「大老、出かけてきますね」

「お前さんはよく動くのぅ……」


実際にこの目で見に行こう。よいしょと執務机から立ち上がり、あとを大老に任せて領館を出る。

向かうのは町の外縁部。田畑と牧場のある区画だ。

畑を管理しているのはアグリコラ、牧場はファルマだったはず。今回は牧場の方なのでファルマを訪ねる。


「ファルマ、調子はどうですか?」

「あららぁ。ライカさま。どうもどうも」


おっとりとしたファルマの独特の間延びした声に挨拶を。それから牧場を見回す。

荒れ地だったそこは、すっかり元通り、とはいかないまでも家畜を飼える状態ではありそうだ。フルゴルが柵をぶち抜いて逃げ出さない限りは。牧草はまだ乏しいので放牧は草を食べさせるためではなく運動のためだけになるだろう。


私の見立てが正しいかをファルマに問い、そうですわねぇ、と同意をもらったところで、フルゴルの飼育について相談してみる。

鹿やその類の飼育の経験はあるらしいファルマは、はぁいがんばりまぁす、と穏やかに答えた。


「まぁ……言うこと聞かなかったら……その日の食卓に並べるだけですからねぇ」


ほけほけと笑うファルマから、なんだか不穏な一言が聞こえた気がした。

…………フルゴルはおいしくないらしいですよ。


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