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永久凍土から神の国へ、世界制覇を目指します  作者: つくたん
風のクラン”ベルベニの奔放”
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滞留した風の男

あー、やっちまったなぁ……。


空は遠く、風も流れない。暗い路地でうずくまる。

現状、栄養失調、脱水症状、四肢に軽傷、腹部重傷、肋骨骨折、発熱。腹から流れ出ているのは血か、命そのものか。

まさに死の淵で、生死の境を反復横跳びしている状態。だというのに、軽い口調で自らの失態を茶化す余裕がある。現実逃避かもしれない。


ターゲットの暗殺までは上手くいったんだけどなぁ。

くそ、離脱経路の構築が甘かった。


後悔も反省も今は何の役にも立たない。どうにか逃げ延びたものの、死は間近に迫っている。

ここから生き延びる手も見つからない。そもそも今ここがどこかすら把握していない。できることといえば、このままこの路地で衰弱死していくのを待つだけ。


あぁ。運命の女神様が微笑んでくれやしねぇかなぁ。


遠のく意識で呟く。あぁもう思考を走らせる余裕すら腹から血と一緒に流れ出てしまった。

このまま自分の命は風にさらわれて、風神のもとに送られるのだろう。


「……怪我人です! 誰か!」


***


さてさて。勢いで大変なことになったぞ。


町に帰還して、大老に経緯を告げたら始まった小言3時間から解放されて今。

約束してしまったことはしょうがないので打開と解決に向けて策を練ろう。


「情報を整理しましょうか」


火のクランの先代首領の暗殺。犯人は取り逃してしまった。

この逃げた犯人を捕まえることが"ニウィス・ルイナ"に課せられた条件だ。火のクラン自身も含む、私たち以外のクランが犯人を捕まえたらその時承認は取り消し。

現在、承認自体は取り付けられおっとている。それをいいことに犯人確保をのらりくらりとかわすこともできなくはないが、それはちょっと『信頼』のクランとしてやってはならないことだ。


「えぇと、犯人はベルベニ族の男性ですっけ?」

「はい」


ベルベニ族の男性。

……うちに、ひとりいるのだが。


「ナフティス」

「ほい」

「どこから出てくるんですか」


毎度のことながら。今回は棚に置いた花瓶の影から出てきた。影から影へ渡る転移武具での転移で現れているのだろうが、まったくいったいどんなところから出てくる気だ。普通にドアから入ってこいと思わなくもない。


「いやぁびっくりするライカ様が面白くて」

「もう……まぁいいです。聞きたいことがあるので」


ベルベニ族のことはベルベニ族に、だ。


一応、ベルベニ族というものについては知っている。学校で習う、常識としての範囲では。

ベルベニ族とは、自由と奔放を愛する風神を信奉する風の信徒だ。水のスルタン、火のキロ、樹のアレイヴと種族を当てはめていくなら、ベルベニ族は風に当てはまる。

風神の信徒であるベルベニ族はまさに風のように旅をする。ひとところに住まず、生まれた時から死ぬまで各地を彷徨う。根無し草と言ってしまえば聞こえは悪いが、種族単位でそんな感じだ。

彼らはヒトと変わらない身体能力と寿命を持つ。スルタン族のように小人種族なわけでも、竜族のように角があるわけでも、アレイヴ族のように耳が尖っているわけでもない。極端な身体的特徴はないが、色鮮やかな髪を持つ。

そして、ベルベニ族は歌と踊りを愛する。流れの吟遊詩人や踊り子、旅芸人はだいたいベルベニ族だ。

自由と奔放、歌と踊り。風のように流れ行くベルベニ族は転じて、諜報と暗殺の名手でもある。


知っているのはそれくらいだ。学校で習う常識程度。

ナフティス以外のベルベニ族と深い面識がないせいで、ベルベニ族についてあまり知らない。

ちょうどいいのでベルベニ族と、彼らが中心となって構築されている風のクランについて聞こうじゃないか。


「んまぁ、学校で習う通りっすけどねぇ」


ひとところに住まず、定住しない。だから風のクランは固有の領土を持たない。各地を気ままに旅している。

しかし再信審判の時になれば、どこからか流れてくる隙間風のように陣営に入り込み、諜報と暗殺でもって撹乱する。武力で正面きってぶつかって勝つのではなく、混乱によって自滅させて勝つのが常だ。

自分以外みんな立ち行かなくなれば最終的に生き残るのは風のクランだけ。そんな勝ち方だ。


世の中で『ベルベニ族とは』と言われて教えられる内容通りで、そこに付け加えることはあまりない。

強いて言うなら、上下関係がないくらいだ。他のクランのように、首領が政治を取り仕切って民が働くというような形式ではない。土地に縛られて領土を持たぬように、上下関係を強いる指導者も持たない。

各々が『これは風のクランの勝利につながる』と思ったことをやる。


「だからてんでバラバラで、方針も作戦もないんすよ。取りまとめるやつ……首領がいねぇんで」

「首領がいない? では風のクランとしての指示などはどうするんです?」


自由に、上下関係がない。それはそうとして、でも風のクランとして動きたい時だってあるはず。

火のクランの先代首領の暗殺とか重大な案件を誰かの独断でなしたとでもいうのだろうか。


「あぁ、うん。まぁ……中心人物はいますね、首領ってワケじゃぁねぇんですが」


これはまさに『風のうわさ』ってヤツなんですが、と前置きしてナフティスが語るには。

風のクランには中心人物がいるらしい。指示を出したり命令を下すような立場についているわけではなく、とびっきりの諜報と暗殺、歌の技術によって誰からも認められるようになって、結果的に中心人物に祭り上げられたような人間が。


「俺が見立てるに……暗殺犯はそいつじゃないかって思うんすよねぇ」


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